悪魔の羽根 / ミネット・ウォルターズ

人気女流作家ミネット・ウォルターズの『悪魔の羽根』。日本では新刊だが、2005年の作品らしい。
一言でいえば、深刻なPTSDを負った女性ジャーナリストがガッシャーンと切り返す物語なのだが、一筋縄ではいかない。
挑戦的な試みがなされているサスペンススリラーで、好き嫌いは割れるかも。

さて、主人公は、30代前半のロイター通信の記者コニー・バーンズ。
2002年シレラレオネで、彼女は現地の女性5人がレイプされ殺害されたという事件に出会う。犯人は3人の元少年兵だったが、彼女は内心納得はしていなかった。
疑問を抱いたのは英国人の傭兵ジョン・ハーウッドを見たからだ。以前、キンシャサでも彼を見たことがあり、その時はキース・マッケンジーという名だった。

その2年後、今度はバクダッドでコニーは再びマッケンジーと相見える。彼はまた違う名前を名乗っていた。調べてみると、バグダッドの地でもシレラレオネ同様のレイプ殺人が起きていた。

身の危険を感じたコニーは、英国へ引き上げようとするのだがその矢先拉致監禁されてしまう。3日後、コニーは一見無傷で開放されたが、その間のことを誰にも何も語ろうとせず、引きこもってしまう。

深刻なPTSに苦しむコニーだったが、イギリス西部の田舎での生活をスタートさせようとする。だが、そんな矢先、コニーの両親への無言電話が始まって・・・

 

 

実際のところ、コニーがどう決着をつけたかについては、いかようにもとれる。
コニーが友人に送ったメールのなかに、ある教訓話があるのだがちょっとそれを紹介してみよう。ある意味、これがコニーの選択肢なのである。

あるお金持ちの男があなたに殺人光線銃を見せ、そのボタンを押したら大金をやるという。
それを押せば、中国のある老人が死んでしまう。しかし、その老人は家族から疎まれ、はやく死んでもらいたいと思われており、しかも誰もあなたが彼を殺したということを知るものはいない。

この場合、あなたには三つの選択肢がある。
一つは誰かが死ぬのはデタラメだと信じてボタンを押し裕福になること。
二つ目は、ボタンを押してお金をもらい罪悪感に苛まれながら生きること。
残る三つ目は、ボタンを押すことを拒否して、貰えるはずのお金をふいにすることだ。

さて、あなたならどうする?その老人がもしも極悪人なら?
そして、コニーはどれを選んだと思うだろうか?

私も最初は迷ったが、コニーについては解説の松浦氏と同じ結論に至った。もっとも、コニーの場合はそう単純ではないが。
丁寧な心理描写は読ませるし私たちに考えさせる。

私も女性なので、ついついコニーに肩入れをして感情的に読んでしまうが、実はかなり毒の効いた物語でもあると思う。なにせ、最終章のタイトルは「深淵」なのだ。

コニーは当初、被害者として尋問された時には何も語らないことに不審感をもたれたのに、二度目には平然としすぎていることで疑いを持たれる。この二人は同一人物かと思うほどその態度は違うのだが、この対比も面白い。

Spenth@: 読書と旅行、食べることが好き。