カルニヴィア3 密謀 / ジョナサン・ホルト

去年行きそびれたそのイタリアに、今年は行ってきまーす!(ツアーだけどもね…)ダニエーレの館のあるヴェネツィアも観光してくる予定。それなに?という感じだが、ダニエーレというのは「カルヴィニア」という小説の主人公(の一人)

このカルニヴィアには、三人の主要登場人物がいる。カルニヴィアというバーチャル空間の創造主であるダニエーレ、日本の警察に該当するイタリア憲兵隊の大尉カテリーナ、駐イタリアのアメリカ軍に勤務するホリーである。

ダニエーレはPCの天才だ。幼いころ赤い旅団に誘拐され両耳と鼻を削がれてたという経験があるためか他人に対して心を開けない。
カテリーナは自分の上官と関係を持った挙句、彼をセクハラで訴えるという暴挙にでている。
普通なのはホリーだけなのだが、著者はこのホリーちゃんに割と厳しい・・・

 

  

物語の舞台はヴェネツィア。
リド島の海岸で、喉を割かれ、舌を抜かれた男の遺体が発見されるという、いかにもカルニヴィアというシチュエーションで物語の幕はあく。

もしここで知り得た秘密をもらすことがあらば、喉を耳から耳まで切り裂かれ、舌を根元から引き抜かれた末に、日にふたたび潮が満ちては寄せる波打ちぎわに躯をさらされる罰を潔く受け入れんことを

フリーメイソンの厳格な誓いにのとって殺害されていたその男は、ヴェネツィア・カトリック銀行の幹部。カテリーナはその捜査の指揮を任されるが、背後にはヴェネツィアを擁する裕福なヴェネト州の分離独立を目論むティネッリ伯爵の存在があった。

一方、ダニエーレはカルニヴィアを去ろうとしていた。カルニヴィアは彼が作り上げた完全な匿名コミュニティーだが、今後はユーザー自身に運営を委ね、公的責任とプライバシーのどちらを優先させるのかを選んでもらおうと考えていた。
だが、引退表明の矢先、カルニヴィアの暗号プログラムを悪用した大規模なテロが起きる。イスラム過激派のタリク青年の仕業だった。ダニエーレの予想を超える規模でカルニヴィア内の汚染は進んでいく。

同じ頃、ホリーは父を陥れた陰謀を嗅ぎつける。それは、父のタイプライターに残されていた一通の意見書だった。
その中で、彼はグラディオという機関に言及していた。東西冷戦中、グラウディオは、イタリアを共産主義思想から遠ざけるためNATOから武器提供されていた組織で、当時起きた爆破や残虐な事件に関与していた。
軍人だったホリーの父親は、そのグラウデイォが再結成されようとしていることに危惧していたのだ。そのせいで父は意図的に脳梗塞を引き起こされたのかもしれない。
それを暴くために、彼女はふたたびイタリアの地に戻ってきたが・・・

今回もまた、三者三様の闘いが繰り広げられる。
「密謀」というだけあって、歴史的背景と現在のイタリアの政治的立ち位置、経済的状況などが複雑に絡み合う。

東西冷戦下、イタリア国内で起こった「赤い旅団」などの極左による爆破や残忍な誘拐事件の背景には、何があったのか?そこで、アメリカやNATOがどのような役割を果たしたのか?
東西冷戦が終わった現在、ふボスポラス海峡の向こうの敵たいして、イタリアがどのような役割を担っているのかなどなどがよくわかる。

それでいて、単なる歴史フィションに終わらず、ストーリーもキャラクターもまた魅力的だ。ビッチなカテリーナは幸福を掴みかけるが掴みきれず、ダニエーレは自らの過去に向き合い。ホリーは、正義を信じて奔走する。
カテリーナが新恋人のためにいそいそと用意する郷土料理も楽しいが、ダニエーレが考える数学的世界にもまた魅せられる。が、ホリーのなんと悲しいことだろう。

物語の端々には、米国情報部が全世界の盗聴やインターネット傍受をしていたと暴露したエドワード・スノーデンの名が挙げらるが、本書におけるスノーデンはホリーなのだ。

 

 

Spenth@: 読書と旅行、食べることが好き。