グリシャム「法律事務所」と「The Firm」

週末の読書会の課題本は、ジョン・グリシャムの『法律事務所』なのだ。

カオスな本棚から探し当ててみると、これが結構分厚い(私が持っているのは小学館文庫)週末に一生懸命読んで、ついでに映画も観た。
たぶん、読書会では半分以上映画の話になるのじゃないかなと思ったのだ。

映画を観て思ったのは、
トッム、若っ!!!!

20年前の映画なので、若いは若いのだが、実はトム・クルーズは今も若い。なにせMIPの最新作でもアクション全開、離陸する飛行機にしがみついちゃうし

だが、今ほど垢抜けてないトム・クルーズがとてもいい。背が高くないため、ロングコートが似合ってないのさえいい(笑)
トム・クルーズ作品で好きなのは悪役に挑戦した「コラテラル」だが、こういう役も意外といいなぁと思う。

ところで、小説と映画はストーリーが変えてあり、主にその結末が大きく異なっている。

小説はその長さも手伝って、明後日の読書会で「冗長すぎる!」と言われそうだが、そこがいいのだ。

映画では、ミッチとアビー(と犬のハーシー)は、FBIからせしめた75万ドルはすべて兄のレイに譲り、二人と一匹でボストンで再出発を決意して終わっている。
FBIとベンディニ事務所の双方を騙し、マフィアに自分を手だしさせないようにして、ミッチは弁護士であり続ける。そしてボストンでささやかな法律事務所を開くために旅立つのだ。

ところが、小説ではFBIから100万ドル、ベンディニ事務所からは1000万ドルを盗み、事務所の連中をFBIに逮捕させ、自分たち夫婦とレイはケイマン諸島へと逃避行するのだ。

せしめる金額の多寡もさることながら、決定的に違うのは、小説ではミッチが「弁護士なんてこりごりさ」と言っていることだろう。

裕福ではない家庭に育ち、低賃金のアルバイトをし、ハイスクールでクォーターバックとして活躍したという若き日のグリシャムは、ミッチそのものだ。
そして、そんなグリシャムには映画のミッチにみられる「清貧さ」は似合わない(笑)
「ありていにいって、僕は弁護士なんかなりたくもなかった」というのも、グリシャム自身の声のような気がする。

ただし、グリシャムは小さな事務所で、貧しい依頼人のための公費弁護士としてのキャリアを積んでおり、そのときの経験が以降の小説のネタになっているともいう。

映画もとてもよく出来ているとは思うが、私は小説にみられる「実直な現金さ」のほうを買いたい。

ただ、唯一小説にもの申したいのは、「犬のハーシーはどうなったんだ?!」ということである。
置いてけぼりは仕方ないにしても、犬好きとしては、せめて隣のおじさんが飼うことになったとかの一文が欲しかったなぁ…

ハーシーの件もそうだが、映画ではレイとタミーの間にも幸福が訪れそうな予感があり、全体としてハッピーエンドで締めくくられている。

また、本書はいわゆるリーガルミステリとはその趣が異なっている。
何が違うって、法廷シーンが全くないのだ。
そのかわりに、法律事務所という世界の内幕や、弁護士という人種の拝金主義的傾向が重点をおかれて描かれている。

おまけにアクションシーンも満載、タミーとアビーがケイマン諸島の事務所のコンドミニアムで、エイヴァリーが眠っている隙に書類をコピーするシーンなどは、スパイもののようなスリルもある。

しかし、本書で特筆すべきはやはり主人公のハングリーさだろう。
日本も90年代はじめのこのころは、もう大手を振って「清貧より金儲け」と言える時代になっていたと思う。
そうした意味でも、時代にマッチした小説だったのだろうなぁと思うのだった。

 

余談だが、映画でミッチが就職を決めた夜のお祝いのディナーに、彼は中華料理と「高級ワイン」を用意している。

この「高級ワイン」は、ケンウッドで、たぶんブリュットだと思う。
ケンウッドといっても、音響メーカーではない。カリフォルニアのソノマ・ヴァレーの老舗ワイナリーだ。「高級」とはいえ、白なら2,000円程度のワインなので、買ってみようと思って探したのだが(←懲りてない!)、高島屋さんでも楽天でも売っていなかった。

 

 

 

 

 

Spenth@: 読書と旅行、食べることが好き。