『紙の動物園』読書会

今月の課題本は『紙の動物園 』で、参加者はやや少なめの9名。
男性はおてもと氏のみというほぼ女子会状態。
場所は横浜駅近くのいつものお店だ。

 

この『紙の動物園』は芥川賞作家の又吉直樹センセイがテレビで推薦したことから火がついたらしいが、SF短編集だし、読書会は難しいだろうなぁと思っていた。
特に、本書は短編を通してのテーマが特に決まっているわけでもない。

でも、人数が少なかったのが幸いし、思ったより読書会らしい読書会になったかな?

平均点は、5.3点!(10点満点)
最高点は9点で、一番多かったのは6点台。

予想はしていたがキビシイ…やはりテッド・チャンを意識して読んだという人が多くて、概してチャンに比べればやはり劣るいう人が多かった。

私自身は、どっしり重めなテッド・チャンより、ポップなケン・リュウのほうが好みだったかな。なんだか最近、重たいものを読むのがしんどくなってきた。

この日は手帳もペンも忘れ、メニューの裏にメモメモ。

▪️マイナスポイントは
・そもそも短編が苦手
・憧憬の対象としてのアジアがリアルではない
・中国茶で煮しめた感じ
・アイデアはいいが物語を構築する力が足りない
・新しさがない
・スケール感がなく、こじんまりとしている
・読みにくい
・テーマが薄っぺらい
・書き過ぎている

 

・・・散々。

もっとも評判が悪かったのが、ヒューゴー賞にも輝いた「もののあはれ」。
この話は日本人青年が宇宙船を修理するために自分の命を犠牲にするという話だが、こんな日本人いるわけない!と反感を覚えた人が多かった。

この日本人像は東日本大震災の時に海外メディアによって賞賛された日本人像を想像させた。非常下にあっても、我々は暴動も略奪も起こさず、おとなしく列をつくって順番を待ったのだ。
だが、逆に言えば、暴動すら起こせないほど、日本人は刈り取られてしまっているだけなのじゃないかという指摘も。・・・ダメですか?日本人は。

ちなみに、私自身は素直に「日本人って偉いよね!えっへん」と納得したクチだった。

 

「泣いた!」という人が多かったのが、表題作の「紙の動物園」。
泣かせた部分は、最後の母親の手紙なのだが、これを書かなければもっと良かったという声もあった。
要するに明かさずに読者に類推させなさいよ、ということなのだろう。
しかし、もしこの部分をを書かないとなれば、何のことなのかわからないという人も多いのではないだろうか。

「紙の動物園」のテーマは、母と息子の関係だけではない。背景にあるのは、文化大革命やその後遺症に苦しんだ時代の中国であり、母親はその象徴でもあるといえる。
中国というのは、地理的には近いが実は意外に知らない国でもある。
あの手紙がないとすれば、「カタログで見つけた花嫁」ということから、何もかもを類推するしか手はないが、それは読者にも主人公にもハードルが高すぎる気がするが・・・。

▪️よかったところは
・柳田邦男的で面白かった
・アイデアがユニーク
・著者は多方面にアンテナを張っている人
・クラシカルな面白さ
・壮大でセンチメンタルでキラキラしている
・哲学的

柳田邦男的というのは納得。
ケン・リュウはテッド・チャンに比べてはっきりと中国色がでているが、その下地には子供の頃両親に聞かせてもらった中国の昔話があるのだろう。

前エントリにも書いたが、そのような地方の説話を編んだ「聊斎志異」に似ているものが多い。「聊斎志異」は中国の怪異譚だが、この怪異とSFのイノベーションは相性がいい。
『良い狩りを』などは最たるものだし、「波」ではマギーら人類は変異を続け、ついには身体を脱ぎ捨ててエネルギー体になるが、それと精霊のようなものはそう遠いものではないだろう。

ところで、カズオ・イシグロは日系の英国人作家だが、初期の頃は敢えて”日本人が書きそうな英語”で小説を書いていたのだという。
当時、欧米の人々が日本に憧れを抱いていることもあって注目されたとハヤカワ主催のトークショーでも言っていたが、ケン・リュウはその中国版なのかもしれない。

ちなみに、カズオ・イシグロ自身が両親とともに英国に渡ったのは、5歳の頃のことだ。日本に淡い郷愁を持っているものの、中身は完全に英国人である。

『結縄』のアイデアは非常にユニークで、しかもその中に第三国の貧しい農民と遺伝子組換え作物の特許を握る巨大企業の問題も盛り込んでもいる。
果てない人間の利益のために、科学を突き詰めていけばいくほどに、立ちふさがるのは哲学的な問題だ。物語が下手だと指摘する声もあったが、個人的にはそれをコンパクトにかつ上手に物語に落とし込んでいると思う。

最後に盛り上がったのは「波」。
10歳のままで永遠にとどまることを選んだボビーは、果たして子供としての可愛さがあるか否か。
どうも、可愛げはなさそうだが、この問題はそれこそ『寿命1000年』の時代が到来した時、わかるのかもしれない。

 

 

 


 

 

Spenth@: 読書と旅行、食べることが好き。