「制裁」、「ボックス21」、「死刑囚」、「三秒間の死角」の作者によるグレーンス警部のシリーズの北欧ミステリ。
地下道の少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
さて本書だが、今回のテーマはタイトルがあわらす通り、「地下道で暮らす社会から打ち捨てられた人々」だ。
それと日本でも昨今特に問題視されている「児童虐待」。
物語は、ストックホルムの街中で43人の子供が捨てられているシーンで幕をあける。子供たちは貧しい身なりで、ルーマニア語しかしゃべれない。
時を同じくして、病院の地下通路で顔の肉が抉られた女性の死体が発見される。
捜査にあたるグレーンス警部は、自身に深刻な問題を抱えている。この世で唯一愛した女性アンニが死にかけているのだ。30年近く前の事故のせいで、アンニはずっと植物状態だが、深刻な状態に陥っていた。
ルーマニアの子供たちと、地下道で殺された女性の遺体…
二つの事件が交錯しつつ物語は進んでいくのだが、これにまとまりをもたらすのが、教会に一人静かに座っている「地下道の少女」の存在だ。
ストックホルムの地下世界には地上と変わらないほどの広さがあるという。
トンネル網が張り巡らされ、そこは寒さから身を守る必要のあるホームレスたちの住処となっている。
まだ子供なのに地下道で暮らし、汚れの層に覆われて強烈な臭いを放っている。
なぜ、彼女は地下道で暮らしているのか…
彼女は何者なのか…
それもルーマニアのような国ならいざ知らず、高福祉で知られ、世界でも指折りの裕福な国スウェーデンで。

この「地下道」というのは文字通りストックホルムに実在する「地下道」であるが、比喩的な意味も持っている。すなわち彼らは地上に暮らす普通の人々からは見えない。
スウェーデンだけの問題ではなく、野田市の虐待児童事件を例に出すまでもなく、日本においても彼らは「透明人間」だ。
貧しい国であれ豊かな国であれ、見えてはいても見えていないことになっている。
読後感はよくない。この種の問題に安易な解決策はなく、そのため一層重苦しい気分にさせられる。
ただその事実を知らしめること、それがこの種の問題提起型ミステリの醍醐味でもあり、存在意義でもある。
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