「地中の記憶 」は2週間もかかったというのに(笑)、本書「謀略の都1919年三部作 1」は1日で読み終えられる。
年々集中力はなくなってきているものの興味には如実に比例する。それくらいのゴダード・ファン。
惜しむらくは、講談社さんが電子版を出してくれないことである。
全く、何回アマゾンの「Kindle化リクエスト」のボタンを押したことか。
だが、一向にそれらしき気配はない。もうじき完結編も発売されるというのに。
ともあれ、電子版がない本なぞ、余程のことがない限り買うものかと堅く心に誓っているが、ゴダードは別。ゴダード作品は、ややウェットなところも、それが美しい日本語で翻訳されているところも好きで、新刊がでればパブロフの犬のよろしく条件反射で買ってしまう。
しかも本作はスパイ小説であり、トリロジー(三部作)仕立てだというではないか。これが”余程のこと”でなくしてなんだというのだ。
短い本ばかりが持て囃される昨今であるが、誰がなんと言おうと、わたしは堂々たる長編小説が好きなのだ。これは単品料理よりも、コース料理にありがたみを感じるのと似ている(ラーメンや焼き鳥とかも好きだけど)
さて、本書の舞台は1919年のパリである。パリは今もアブない旅行先となったが、1919年もそうだった。第一次世界大戦が終わり、米、英、仏、伊、日の連合国の代表団がドイツに対し講和条約締結に向けた協議を行っていたが、この締結がなされるまでは、まだ彼の地は戦時下だったのだ。
主人公は元英国陸軍航空隊のパイロット、ジェイムズ・マクステッド(マックス)。彼は、父親の地所を利用して軍時代の部下サムとともに航空学校を作ろうとしていた。
そんな折、マックスの父サー・ヘンリーがパリで急死してしまう。サー・ヘンリーは日本やロシアへの外交経験を持つ外交官で、英国代表団としてパリに派遣されていた。
しかし、彼は宿舎から離れたモンマルトルのアパートの屋根の上から転落するという不審な死を遂げたのだった。そして、そのアパートには、美しい未亡人マダム・ドンブルーが住んでおり、彼女と男女の関係にあったサー・ヘンリーは足繁く通っていたらしかった。
地元警察は事故として処理、英国代表団やマックスの兄も体裁を考え、事を荒立てず穏便に済ませようとする。しかし、マックスはそんな彼らの意向に逆らい、一人パリに残り真相を突き止めようと決心するのだった。
そして、サー・ヘンリーが大金を集めるために外交上知り得た秘密を売ろうとしていたことを突き止めるのだが・・・
帯には「第一次世界大戦の混沌を生きる スパイ小説」とあるが、はっきりってスパイ感はまだ薄い。第一部の本書ではまだマックスはスパイではないのだ。
翻訳者の方もおっしゃっていたが、物語自体の雰囲気は「ダウントン・アビー」に似ている。
「ダウントン・アビー」は第一次世界大戦前後の時代に翻弄される英国貴族を描いたテレビドラマであるが、時代設定もドンピシャだ。
マックスの家柄はかのグランサム伯爵家ほどではないが、マックスの母、レディ・ウィニフレッド・マクステッドは、グランサム伯爵家の長女メアリーそのものという感じである。
マックス自身もサムとは今だ上官と部下の関係にある。当然、家柄の良いマックスが中尉で、5歳年長のサムが軍曹だが、それは二人の体格差の面でも歴然としている。当時の英国人は体格とその話し言葉で属している階級が明らかだったのだ。
かのジョン・ル・カレの詐欺師の父親は、自分の田舎訛りを上流階級風のアクセントになおしたという。もちろん、詐欺を成功させるために。
かのジョン・ル・カレの詐欺師の父親は、自分の田舎訛りを上流階級風のアクセントになおしたという。もちろん、詐欺を成功させるために。
また、飛行機乗りがスパイとして活躍するというのは、フォーサイスの自伝「アウトサイダー 陰謀の中の人生」を思い出させた。言われてみれば、マックスの性格は”アウトサイダー”のフォーサイスそのものだったりする。
ただ、それだけではないのがゴダードなのである。ゴダードといえば、過去の秘密。
第一部では、マックスはその扉の前に立ったばかりだが、今後、実際に起こった歴史的事件とサー・ヘンリーの本当の秘密は交錯していくはずだ。
マックスが生まれた土地「日本」も必ず登場するだろうが、ゴダードは日本をどう描くのだろう?
そして、そこには、サー・ヘンリーだけではなくマックスの母の秘密や、思いもかけない形での「愛と裏切り」が待っているにちがいない。
ちょっとカッコよすぎるきらいもあるマックスの冒険が今から楽しみである。
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