吉本の芸人ばかりとりざたされているが、直木賞を受賞したは東山彰良だった。
ミステリー好きには『逃亡作法 TURD ON THE RUN 』
ちなみに『路傍』
文庫では垣根涼介氏が解説を書くというので、『逃亡作法』をはじめとした数冊を読んでみたのだが、確かにオフビート!筆力があり、世界と自分との境界というものが際立っていた。
『さすらい』の帯で垣根さんは「ひきこもりの小説に泣いている暇はない。」と言っているのだが、まさにそれ。
あ、私は半分くらい引きこもりに近いが。
世界は「流れ」続ける。
本書『流』
舞台は1975年の台湾。蒋介石が没したその年、主人公秋生の祖父は何者かに殺される。第一発見者は秋生だった。祖父は山東省の出身で、戦時中多くの共産党員を殺したという。
短気な反面義理堅くもあり、孫の秋生のことは可愛がってくれた。
警察の見立ては怨恨による殺人。警察の見立て通りだとしても、その恨みが生まれた場所は中国大陸以外には考えられなかった。
秋生は当時台湾で一番の進学校に通っていた。しかし悪友の手引きで引き受けた替え玉受験がばれ、退学させられた。残されていたのは、軍隊に入るか、名前さえ書けば馬鹿でも入れる高校に編入することのみ。迷わず後者を選ぶが、それは犯罪者予備校に通うこととかわりない・・・
たぶん当時の台湾は日本より20年は遅れていただろう。物語の端々からノスタルジーが漂う。
”こっくりさん”そっくりの子供の遊び然り、秋生の祖父が守られていたと信じていた”お狐さん”然り。台湾は、中国は、一見欧米よりも遠い国でありながらも、やはり日本の隣国なのだと妙に感心する。
台湾で一番の高校に通っていた秋生の人生は、あれよあれよという間に転落していくが、悲壮感はなくどこか楽しげでユーモラスでさえもある。この怒濤感。
物語を貫くのは「祖父の死の真相」だが、秋生と幼馴染みとの初恋の顛末や、ついにはヤクザになる悪友・小戦との悪さの日々などのエピソードが読ませる。かなり過激だが、キラキラ輝いているのだ。
体験をすることで人は傷つき学ぶ。
ただ、全てを体験するのは無理だ。だから人は本を読むのではないだろうか。
そう思わせてくれる。