7は秘密 〜ニューヨーク最初の警官 / リンジー・フェイ

本書『7は秘密』は、『ゴッサムの神々』の続編である。
のだが、実は私は第1作目は読んでいない。

  

本書の妙味は、舞台が19世紀半ばのN.Y.であり、彼らが発足したばかりのニューヨーク市警で働く警官であることだ。

著者リンジー・フェイによる「歴史についてのあとがき」では「ニューヨーク市警は、厳しい社会的変動と政治的憎悪の渦中にあった1845年に創設された。市民は”常備軍”ができることを公然と非難し、制服がなかったのにもかかわらず、警官たちは敵意と不信で迎えられた。」とある。
主人公ティム(ティモシー)・ワイルドら警官を取り巻く環境は、今日のそれとは大いに異なる。

そして1846年のある冬の日、ティムは黒人の混血の女性から助けを求められる。
ルーシー・アンダーソンと名乗るその女性は、黄金に輝く肌と灰色がかった緑色の瞳を持つ、誰もが振り返らずにはいられない美人だった。彼女の妹と7歳になる息子が奴隷捕獲人に連れ去られてしまったという。
彼女に流れている黒人の血はごくわずかだろうが、当時の法律では黒人はあくまで黒人だ。彼女がティムに助けを求めたは、黒人の友人のアドバイスによるものだった。

警官の半分は悪党だし、逃亡奴隷の捕獲はまぎれもなく合法だ。
だが、ティムは奴隷制度を快く思っておらず、自分の良識に従う。
彼女は自分たちは正式な証明書を持つ”自由黒人”だが、奴隷業者たちはそんなことは気にもとめないという。狙われたらお終いなのだ。

署長の兄ヴァレンタインの助けを得て、ティムはルーシーの妹と息子を救出に成功し、兄の家に匿う。
しかし、その後、ティムはルーシーの遺体を発見する。彼女はヴァレンタインのローブの紐で首を絞められて殺され、妹と息子は姿を消していた。
兄が犯人であることはあり得ない。
果たしてルーシーを殺したのは誰なのか?デリアとジョナスの行方は…?

テーマは「黒人奴隷問題」である。しかし凡庸だと思うなかれ。これがなかなか読ませるのだ。

タイトルの『7は秘密』は見たカラスを数える古い数え歌の歌詞だが、黒い鳥(ブラックバード)は、黒人奴隷誘拐者(ブラックバーダー)という残酷な隠語にひっかけてある。
1は悲しみ、2は喜び、3は少女で、4は少年、5は銀(しろがね)で、6は黄金、7は秘密で絶対もらすな。この秘密と物語の謎がうまくマッチしている。

ところで、警官にアイルランド移民が多いのは、ルヘインの『運命の日』 で知っていたが、はっきり言ってアイリッシュの警官は、本書では「悪役」だ。
しかし、こうした悪徳警官よりも、利己的な人間のほうが結果的には遥かにタチが悪い。

また、登場人物も個性的でいい。この黒人奴隷捕獲人の事件のいく先々で絡んでくるシルキー・マーシュという女性は、どことなくあのアイリーン・アドラーを思わせるが、ティムは絶対シルキーのことを「あの女性」などとは言ったりしないだろう。

聞けば著者はシャーロキアンらしいが、しかし、ティムはシャーロックとは全く違う。もっと私たちが感情移入できる普通の人間で、人情味にあふれた若者だ。

マダム・マーシュは売春宿のマダムで、兄ヴァルの元カノダガ、どうやら前作でワイルド兄弟とは険悪な関係になったらしい。このシリーズが続くかぎり、彼らの前に立ちはだかるのだろう。
ちなみに、私のお気に入りは、英国人のピアニストで同性愛者のヴァルの友人のジム。

 

 

Spenth@: 読書と旅行、食べることが好き。