舞台はそのハリケーンで壊滅的な被害を被った街ニューオリンズ。時は2007年の年の夏、まだ街は大洪水の傷痕も生々しい。
主人公は女探偵のクレア・デウィットだ。曰く、「この世で一番料金の高い探偵」。最も優れた探偵であることを自負している。
クレアは、”おじ”を探してほしいという男の依頼で、10年ぶりにニューオリンズの街に戻ってきた。この街は、クレアにとって探偵の師匠コンスタンス・ダーリングの思い出の場所だ。彼女はここで、探偵の何たるかを仕込まれた。そのコンスタンス亡き後ニューオリンズを離れたのだ。
依頼人の”おじ”とは地方検事補のヴィク・ウィリングだった。彼は2年前の洪水の際に行方不明になったという。裕福な生まれで、親から相続した財産で検事補の給与以上の生活を送っていたが、彼を悪くいう者は見当たらない。そして公平な法律家でもあった。
コンスタンス仕込みの独特な方法で、クレアはヴィク失踪の謎を追うが…
翻訳ミステリ大賞コンベンションの出版社対抗ビブリオバトルで紹介されていた作品。マカヴィティ賞最優秀長編賞にも輝いたという。
女探偵といえば、『女には向かない職業 』
本当は35歳なのにクライアントには42歳と逆にサバ読み、自分を曲げることはない。思い立てば夜中の1時だろうと、クライアントに電話をかけて悪びれない。常識という言葉はクレアの辞書にはないのだ。
その捜査手法も独特で「捜査」というよりは「占い」というほうがふさわしい。お茶占いや易占い、そして時に幻覚剤をも用いて、自分の夢を占うことで謎を追いかける。
そんなクレアが片時も手放さないのは、ジャック・シレットというフランス人の書いた『探知』という本だ。そのシレットはコンスタンスのかつての師で、『探知』はクレアの探偵としての教科書であるとともに、人生の書でもある。
シャーロック・ホームズに始まる従来の探偵像とはあまりにかけ離れているので、好みは分かれるだろう。全くもって科学的ではない。
探偵は壊れた街でというか、探偵は壊れちゃている。
個人的には好きな系統ではないが、著者は割と美人だし、ニューオリンズの雰囲気も魅力的だ。女性受けはするのではないか。
占い師、クレアの姿はなぜかこのニューオリンズの街にぴったりと嵌る。
全国で最高の殺人発生率と最低の有罪判決率を誇り、英国さながら人々は階級意識を快く受け入れる街。文字通りの「壊れた街」に。
ヴォク失踪の謎の真相はありがちな結末だ。だが、クレア・デウィットという探偵登場のお披露目作品としてはまずまずなのではないか。
そのクレア自身に取り憑いている謎は尾を引く。
既に米国では第二弾が刊行されているという。