サイコパス  秘められた能力 / ケヴィン・ダットン

サイコパスといえば何を思い浮かべるだろうか?
ドラマ『クリミナル・マインド』に登場するシリアルキラーか、はたまた『羊たちの沈黙 』レクター博士だろうか。
しかし、厳密に言えば、サイコパス=反社会的人格障害ではないのだという。


サイコパス 秘められた能力

本書に登場するサイコパスは犯罪者にとどまらない。英国屈指の神経外科医、高名な法廷弁護士、特殊部隊隊員、億万長者の元トレーダーなどなど。
本書には多くの「成功したサイコパス」が登場する。JFLやビル・Cクリントンを筆頭に歴代の米国大統領もサイコパス度が高いと言われているし、かのジェームズ・ボンドも典型的サイコパスなのだそうだ。

サイコパスは社会の頂きに多くいるのだという。
それが証拠に、サイコパス度の高い職業のトップは企業のCEOであるし、先ほど出て来た弁護士、外科医がそこにランクインしている。そして、なんと聖職者もランクインしている。

サイコパスに関する本は多くあるが、本書がユニークなのは、サイコパスの謎に踏み込むと同時に、彼らをただ異質なものと恐れるのではなく、”そうでない我々”も、彼らから学べるものがあるのじゃないか、という視点を持っていることだ。

サイコパスの特徴は、カリスマ的魅力があり自信にあふれ、自己中心的で、冷淡で破滅的でさえあるが、非常に優れた一点集中力をもち、プレッシャーのもと冷静でいられることだ。とりわけ、このプレッシャーの元の冷静さというのは、社会で成功するのに役立つ。彼らは基本的に”恐怖”を感じないのだという。
あるトップクラスの神経外科医は「執刀する患者に思いやりなんて抱かない」という。オペのときは冷静無比な機械になり、手にしたメスやドリルと一体化する。脳という雪山に挑んでいるときは、感情の出る幕はないのだ。つまり、失敗したらどうしようなどということは捨て置いて、目の前の問題だけに集中できる。
また、元トップトレーダーは「トップにいる連中は一日の終わりに出口にむかっているとき、何を考えているのかわからない。すっからかんになったのか、大儲けしたのか。」と言っている。トレーダーは、いちいち大喜びしたり落ち込んだりはしていられないということなのだ。
精神的に弱いと身の破滅になりかねないし、感情を排せなければ到底生き残れないというわけだ。


感情を排して一点集中できることと、恐怖心の欠如は今の社会では間違いなく有利な能力だ。
失敗したらどうしようと皆が躊躇するシーンでも、勝負に挑めるので、チャンスが多い。また、失敗しても引きずらないためまた挑むこともできる。そして、他人のように感情に振り回されることなく、目の前の目標だけに集中できる。

映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン 』でディカプリオが扮した実在の天才詐欺師フランク・W・アバグネイルはこう言っている。
「二匹のネズミがクリームの入ったバケツに落ちた。一匹はすぐにあきらめて溺れ死んだ。もう一匹はあきらめずにあがき、あまりジタバタするもんでクリームがバターに変わり、それをかきわけて脱出した。おれはその二匹目なのさ。」
ちなみに詐欺師もサイコパス度の高い職業だ。

しかし、このセリフのなんと説得力のあることか。
サイコパスの特徴のいくつかは、非常に魅力的だ。目の前の問題だけに一点集中する能力は、得られるものならば是非欲しい。そう思ってしまう私はサイコパス的なのだろうか?
但し、サイコパシーは高性能なスポーツカーのようなもので、運転の仕方によっては死も招きかねないことを忘れるべきではない。サイコパスには恐怖心がないがために、早死する可能性も非常に高い。

ところで、反社会的で服役している”法医学的サイコパス”と、エリートで”成功しているサイコパス”の違いだが、これはまだ完全には明らかになってはないないようだ。

これには反社会的サイコパスのほうが、” 衝動性”や”攻撃性”の調整つまみが高い位置にあるという研究者もいるし、逆にエリートで成功しているサイコパスが”一点集中”のスイッチを自在にオフとオンにできるのではないかという意見もあるという。

光には陰がつきものなように、英雄と悪党は紙一重なのかもしれない。

Spenth@: 読書と旅行、食べることが好き。