謎の独立国家ソマリランド / 高野 秀行

あ、暑いですね・・・ほんと、もうやだ。
 友人たちは日本脱出、ある人なんぞは寿美子的船旅に出かけている。ついでにオットもキャンプに行くとかで、ぐだり放題のぐだぐだ。
途中で放り出していた作業を再開したり(これが作業量膨大)、タイムリーに読めなかった本に手を出したりするチャンス。いや、チャンスはいつでもあるけど。
 

 
で、その読みたかったけど読んでなかったという本が、
単行本が出た時、読みたいなぁと思いつつ読みそびれていたら、文庫化されてしかも電子版もでていた。
ノンフィクション作家の高野秀行氏の本なのだが、なぜだか私はこの高野氏と「ジェノサイド」の高野和明氏が一緒くたになっていた。よくみると、よくみなくても、苗字しか同じじゃないのに、なぜにそう思ったのか…?
それはともかくとして、ノンフィクション作家の高野氏は、ワセダ探検部出身ということで、勝手に親近感なぞも抱いてしまう。

ところで「ソマリランド」って何?という感じなのだが、これはソマリア連邦共和国という国の中にある独立国家らしい。といっても、国際社会には認められていない、いわば「自称国家」だ。
 
ソマリアというのは面白い国で、この「ソマリランド」と連邦共和国に属しているという位置付けの「プントランド」と、中央政府が置かれている「南部ソマリア」の三つから成っているという。
 
政府が置かれている南部ソマリアが一番ちゃんとしているのだろうという気がするが、実は逆。南部ソマリアは「リアル北斗の拳」状態らしい。イスラム過激派と激しい戦闘やテロが続いており、内部でも激しい氏族間の戦闘があるというとんでもない場所だ。
 
プントランドは、タイトルにもある通り海賊国家だという。有名なソマリアの海賊はほぼこのプントランドの住人。主要産業が海賊というわけだ。
そんな中、ソマリランドは、国際的には認められていないものの、自国通貨を持ち、高度な民主主義を実現させているという。北朝鮮と真逆。あちらはよその国の紙幣を刷ったり、ミサイルで周辺国を脅したりすているならず者国家だが、あれでも一応独立国家として認められている。
 
Somaliland Republic map
 
 この「ソマリランド」および「プントランド」、「南部ソマリア」へ潜入し、その実態を綴り考察しているのが本書である。ネタ盛りだくさんのお笑い系かと思いきや、結構真面目なノンフィクションだった。
 
最も面白いのは、「ソマリ人」という人種の気質である。著者曰く、驕慢で、荒っぽく、エゴイストらしい。結構ひどい言い草だが、それはソマリ人が根っからの遊牧民だからで、驕慢で荒々しいエゴイストは、思考と行動が極端なまでに速いことや社会の自由さと同根だという。
農民は、農作物が育つのを辛抱強く待てるが、半砂漠に住まう遊牧民は乏しい草や水を求め、瞬時に判断し家畜を連れての移動を強いられる。我々のような農耕民族は集団で生活をするが、遊牧民は基本単位が個人か家族だけだから、主張も強いというわけだ。
 
私はソマリ人は故デヴィッド・ボウイの奥さんのイマンしか知らないが、「プロジェクト・ランウェイ」のパクリ番組である「ザ・ファッションショー」の司会の際のイマンには、途方もない迫力と誰もがひれ伏すような主張があった。
 
もう「あなた様のいう通りでございます」(笑)
あれはあれで面白かった。
 
Iman Mohamed Abdulmajid
 
ソマリ人を語る上で欠かせないのが「氏族」である。
分家やら分分家やら、分分分家やら分分分分分分家やらあって、これがかなり複雑。これを著者は戦国時代の武将にたとえて説明してくれているのだが、面倒で放棄してしまった。
なんとかかんとか武田家とかなんとかかんとか伊達家とかで説明してくれているのだが、暑くてグダっている頭には入ってこなかった。
ちょうど「応仁の乱 」を読もうと思っているが、理解できるのか心配だが
 頭の良い皆さんにとってはたぶん全く難しくないと思いますです。
 
この「氏族」というのは、企業に似ているらしい。日本の企業も有事に備えがっつり内部留保しているが、ソマリアの氏族もプール金を持っている。自分の氏族の誰かが、別の氏族の誰かを殺せば、ラクダ100頭ないし50頭を支払って手打ちにするという氏族間の伝統的ルールがあり、プール金はそういう有事の際に使われるのだ。会社でも従業員が不祥事を起こせば社長が謝罪するように、ソマリ人の「氏族」の場合は族長が謝罪交渉をする。
 
ソマリ人の基本原理は「カネ」で、彼らに無料という言葉はないらしい。伝統に従って族長が交渉ごとに臨むときもちゃんと日当が支払われるのだそうだ。
著者もそんなソマリアで恐ろしい勢いで資金を減らしていく。あんな物価の国で取材のために持参した150万はまたたく間に消えていった。ソマリアでは何をするにも一々高額な費用がかかるのだ。
 
 
しかし、ソマリ人は銭ゲバっているのだろうか?
日本だって誰かに危害を加えたら刑事罰が科されると同時に民事賠償ということになる。だが、加害者に資力がない場合、その賠償金はきちんと支払われる保証はどこにもない。
 
一家の大黒柱を失った家族にとって、加害者が長期刑に服することは精神的満足に繋がるだろうが、遺族にとり現実的な助けにはならない。日本でも、犯罪
被害者給付金では父親を亡くした子供は大学進学できない。
ソマリ人は「実」のほうを優先させるというだけだ。
 
自称独立国家ソマリランドの収入は、なんとすべて外国にいる親族親戚の「仕送り」だという。
プントランドのように海賊で外貨を稼ぐわけでもなく、他に産業も外貨獲得手段もないソマリランドは、「仕送り」で成り立っているのだ。
日本人の私たちには理解しがたいものもあるが、ま、そこはアフリカ。
そもそもアフリカには自力でなんとかしている国なんてほとんどない。先進国からの「援助」で成り立っているのだから、仕送りといえど、ソマリ人だけでやっているソマリランドはある意味エライのかもしれない。
 
もう一つ考えさせられたのは、国やNGOによる「援助」についてである。
「援助」はその国の経済発展を妨げるというが、その通りで妨げるばかりか、汚職、腐敗の温床となっている。
 
その点、ソマリランドは貧しいが正式な国ではないので、その手の「援助」はない。だから汚職も腐敗も、それをめぐる争いもないのだそうだ。そういう意味では、正式に認められない今のままのほうが国にとっては良いのかも。
 
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それはそうと、「無料」という概念がなく、基本原理が「カネ」の国で、著者が持参した取材費150万はま瞬く間に消えていく。あんな国で無一文になろうものなら、即死亡だ。そこで、著者は義姉義姉や友人に「仕送り」を頼んで取材を延長する。
ソマリ人が大好きなカートという麻薬作用のある葉っぱを毎日大量に食べて飛び、親戚の金をあてにする自分の姿はソマリ人そのものじゃないか、と麻薬で緩んだ頭で著者は自答する。
 
早い話、ソマリ人に同化してしまうのだが、そうなると急にソマリ人に親近感と好感を抱くようになる。このあたりの心理というのはとても興味深い。
 
よく、同族嫌悪というが、実は人は自分と似た人種というやつが好きでもある。
それが証拠に趣味が似た人とは友人になりやすいし、親近感も抱きやすい。

ちょうど日本にソマリアの専門家がいないということも手伝い、当初は反発さえ抱いていたソマリ人に急激に同化し傾倒していったらしい。

なにせ、この本のあとには「恋するソマリア 」という本も出している(笑)

 そうか、恋までしちゃったのか…
 というか、あんなにカートを食べていて頭とか中毒とか大丈夫なのだろうか…?
 

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