食で知る紛争地のエッセイ「国家を食べる」

著者が中東やアフリカで特派員として活躍していたのは、主に80年代なので、少し昔のことになるが、当時の取材体験などがその国の食事を絡めて語られている。

 

国家を食べる (新潮新書)


全部を食と絡めるのは厳しいかな?というところもなきにしもあらずだが、食はその国を知る最も手っ取り早くわかりやすい手段であるのもまた事実。
イラクの羊料理にはじまり、無政府状態のソマリアでのパパイアだけの昼食、オーストラリアのパースに多い南アフリカの肉料理エクソダス、ヨルダンで食べたギリシャ料理ドルマ等々。

中東とアジアの境目は、平べったいパンか、細長いナンの違いというのもなるほど!と思った。丸パンのイラン、イラクは中東だが、ナンのアフガニスタンはアジアだという。
なぜパースで南ア料理なのか、なぜヨルダンでギリシャ料理なのか…
そこにはその国その国のそれぞれの民族的な事情がある。

この本で語られているのは、どれもいわゆる治安が悪く(当時)、安心して暮らしていけない国々だ。
著者は、「国家の一番の要諦は、国民に安全な暮らしを保障すること」と言い切るが、確かにそうだなと思う。
半島のほうからミサイルが飛んできたり、隣国関係も最悪になってはいるものの、基本的に私たち日本人には平和や安全は水のようにあって当たり前で、当然ことすぎて少々麻痺してしまっているものね…

それより何より驚いたのは、いやはや、すごい人の単独インタビューをなさっているのだ。しかも一人二人じゃない。
ヨルダン国王にはじまって、ガーナのちょっとヤバい国家元首に、あのカラシニコフ氏とか。しかも、あのフレデリック・フォーサイス氏とも親交がある。

カラシニコフ氏のインタビューは、この著者の最も有名なエピソードで、本書以前にも何冊か本を書いているらしい。
94歳で鬼籍に入られたミハイル・カラシニコフ氏は、ソ連を代表する銃器設計者だ。AK47は完璧な自動小銃だと言われている。
アフリカや中東の社会主義政権支援のため大量生産され戦地に送られたばかりか、当時は外貨のかわりにさえなっていたともいう。アンゴラの石油の代金代わりにカラシニコフ、幹部が海老が食べたくなったらモザンビークの海老の代金代わりにカラシニコフというふうに。
しかし、カラシニコフ氏の年金は月400ドル。生活は一般人同様に質素で、エレベーターのないアパートで自炊をして暮らしていたという。

当時世界一裕福だった日本という国の大手新聞社の威光もあっただろうが、こうしたコネや人脈こそがジャーナリストの財産だ。もちろん、ご本人にも魅力があるのだろう。
時代も、使える予算も、事情も全く異なるので、一概に比べてはいけないが、少し前にシリアに単独で行って拘束され、問題になったジャーナリストの方のことを考えてしまった。出国したい云々で、目下外務省と揉めていると聞いたけど、何もまた同じ愚をおかさなくとも、ネット全盛の今だからこそできる取材の仕方もあるんじゃないかな?とかね。

もとは、新潮社のサイト「考える人」に連載されていたものを書籍化したらしい。このサイトは、「行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険」の春馬豪太郎氏の別の冒険譚なども読めて、なかなか面白いですヨ。

 

 


 

 

 

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