ウェイワード 〜背反者たち / ブレイク・クラウチ

本書は『パインズ -美しい地獄-』の続編だが、「まさか、まさかの続編」(笑)で、本当に全然続編がありそうな話じゃなかったのだ。
普通の作家ならあれで終わらせている。

一体どうするつもりなのかと思って楽しみにしていたのだが、これが実にシレっと始まっている。

ところで、この「ウェイワード・パインズ三部作」はFoxでドラマ化されこの5月から放送開始らしい。

  

主人公は引き続き元シークレット・サービスのイーサン・バーク。
『パインズ』のラストで驚愕の事実に直面した彼は、本作ではウェイアード・パインズで妻と息子と共に暮らしてる。今はこの街の保安官だ。

彼が暮らすウェイアード・パインズは普通の街ではない。街の周囲にはぐるりと高電圧のフェンスがめぐらされ、その上常時スナイパーによって監視されている。
街の至るところ、家の中にいてさえも人々は常時監視されており、職場も結婚相手ですら自分で決められない。この街を死後の世界だと思う者もいれば、監獄だと考える者もいる。

誰もがこの街から出て行きたいと夢見るが、しかしそれは不可能だ。与えられた境遇を受け入れるふりをし、ヴィクトリア様式の家が立ち並ぶ美しい街の幸福な住民を演じている。
フェンスの向う側には悪夢のような世界が広がっているが、イーサンはそれを知る唯一の住民だ。そしてその状態を保つのが今の彼の仕事だ。

ある夜、イーサンはこの楽園から抜け出そうを試みる隣人を阻止するため森にでかけ、そこで女性の遺体を発見する。彼女の名はアリッサ、この楽園を作りあげた男の娘だった。
イーサンはその男ピルチャーからアリッサ殺しの犯人探しと、アリッサの任務を引き継いでほしいと依頼される。
アリッサは、住民の背反者のグループの潜入捜査をしていた。殺害された夜、彼女ははじめて彼らの集会に参加することになっていた。
かつてのシークレット・サービス時代の同僚で愛人だったケイトこそが、アリッサの窓口だったというのだが・・・

前作ではその異様な世界というシチュエーションに、ただただ圧倒された。だが、今回はそれに人間的なドラマが加わった感がある。

また、本書ではピルチャーの見方がガラリと変わる。
前作はそれでも”理由”が先にだったが、本作ではそれがいかに狂気を孕んでいたものかが明らかになる。
住民が皆、”謎み満ちた美しい終身刑”にあるという状況は、ディザスター・パニックものに似ているが、脱出しては生きてはいけないというのだから話は複雑だ。
そして、住民たちはそれがなぜなのかを一切知ることなしに、それまでの自分自身とは別の人生を演じ続けなくてはならない。
なんだか妙だ、本物ではないと思いつつ、その世界を生きているという状況は、マトリックスの世界にも似ているかなとも思った。

映画「マトリックス」では、夢を見続けていた方が幸福なのではないかとも思ったのだが、本当の自分、リアルな自分でいたいと願うことは、人間の本能のようなものなのかもしれない。

イーサンの妻テレサを通じて語られる心の裡は、ほぼ全ての住民の心の葛藤でもあり、それが物語に深みを与えている。

ラストはこれまた「ここで終わるなんてズルすぎる」という後を引かせる終わり方。そもそも滅茶苦茶なのに、「神」は怒り狂い、加えて男女関係のドロドロ必至。

訳者によると、三作目もそう時を置かず届けられそうだというから、楽しみである。

 

 

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