黒川博行の軽妙な警察バディもの「桃源」

圧倒的に翻訳ものの方をよく読むが、日本人作家だと最近はダントツに黒川博行がお気に入り。
特に「疫病神」シリーズは読み始めるともうやめられない止まらない。

黒川作品といえばバディものだが、本書もそうで、痛風持ちで太めで映画オタクの上坂勤と、沖縄出身でシュッとした色男の新垣遼太郎の一見正反対のコンビが主人公。


桃源

二人は、「模合(もあい)」の金を持ち逃げした比嘉という男の捜査を命じられる。
「模合」というのは頼母子講や無尽の沖縄版で、一種の金融システムだ。属する人がそれぞれに掛け金を出し合い、毎回そのうちの一人がその全額を抽選または入札で受け取る。
沖縄では今でも行われており、沖縄出身者の多い地域でもその文化はまだ残っているという。

比嘉を追って沖縄に飛んだ二人は、比嘉が大掛かりなトレジャーハンター詐欺に加担していることに気づくのだが・・・

イケイケヤクザの桑原とダメコンサルの二宮の「疫病神」シリーズやマル暴担当の堀内と伊達の「悪果」「果鋭」に比べると、地味な印象は否めない。

そもそも上坂と新垣は真面目な二課の刑事で、マル暴でもない。大掛かりなドンデンもないし、ハードボイルドでさえない。
桑原と二宮、堀内と伊達は多くの読者にとっては別世界の人間だが、上坂と新垣は違う。この親近感がいい。

本書は決して黒川作品最高傑作ではないし、初めて黒川博行の作品を読む方にも勧めはしないが、たまにはこういうのもいいんじゃないでしょうか。

捜査している事件そのものの派手さはあれど、描かれているのは刑事の日常だ。それを面白くしているのは、黒川博行お得意の、掛け合い漫才のような会話。
それと、上坂に負けず劣らず食いしん坊な私には、飲食シーンも楽しかった。ちょうどGWにその辺りに行くから参考にしよう(笑)

なぜ沖縄でトレジャーハンター詐欺?と思われたかもしれないが、それは琉球王国が果たしてきた日本と明の貿易の中継地としての役割ゆえ。
このあたりの歴史的事情や、詐欺の手法なども面白くて、読んで損することなし。

続編は間違いなくある。
なぜなら、シュッとしたモテ男の新垣からはなぜか春が去り、おデブでオタクで女にはとんと縁のない上垣にはどうやら微かな春の兆しが見られるから(笑)
頑張れ、勤ちゃん!

疫病神シリーズ

 

 

 

  

 

 

堀内と伊達シリーズ

  

 

 

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