7人目の子 / エリーク・ヴァレア

本書はデンマーク発のサスペンスミステリで、2012年のガラスの鍵賞を受賞しているという。
デンマークミステリとえいば『特捜部Q』のシリーズだが、社会派なところは少し似ているかもしれない。

 

物語の舞台は”コングロスン”という児童養護施設だ。
「市民王」フレデリク7世のために立てられた荘厳な建物で、デンマークでもっとも権威のある施設とされている。

2001年9月、その児童擁護施設にほど近い海岸で女の死体が見つかる。身元は不明だが、着衣からオーストラリアからやってきたと推測された。
しかし、そのわずか数時間後に世界を揺るがす大惨事が起きてしまう。911テロだ。そのせいで、その事件は捨て置かれてしまう。

それから時は経ち、2008年の5月、後に「コングロスン事件」としてデンマーク中の関心を呼ぶことになる出来が始まる。

発端は国務省に届いた一通の匿名の手紙だった。同封されていたのは古い雑誌のコピーで、コングロスンが望まない妊娠をしてしまった妊婦の赤ちゃんを、秘密裏に養子縁組してくれるという記事だった。それと一緒に、錆茶色の古い屋敷とクリスマスツリーの下に座っている7人の幼い子供の写真と、1961年の養子縁組申請書が添えられていた。
その申請書には、「ヨーン・ビエルグラストン」という名があった。

同じ手紙を受け取ったジャーナリストのクヌーズ・トーシンは、コングロスンが国の支援を受ける見返りに、特権階級のスキャンダルをもみ消す手伝いをしていたのではないかとの疑いを持つ。
60年代、中絶は合法ではなくピルはまだ一般的ではなかった。
ある権力者が過ちを犯しコングロスンを使ってもみ消したが、唯一消し忘れた痕跡が「ヨーン・ビエルグラスン」という名なのではないか・・・。

果たして「ヨーン・ビエルグラン」は誰なのか?

 


『特捜部Q』よりもかなりウェットで、北欧ものらしい重みのある作品。

語りは、その7人の子供のうちの一人で、重度の障害があるためコングロスンに残されたマリーだ。
本書は、著者自身がマリーが記した記録を基づいた物語だという複雑な形をとってる。

実際、著者本人もこの種の施設出身で、昔一緒にいた仲間をみつけようと奮闘したことがあるというから、ある意味で実話に近いところもある。

「ヨーン・ビエルグラン」が誰なのかについては、勘の良い人はすぐにピンとくるかも。だが、最後の最後に明かされる真実に驚かされるだろう。

また、そもそも著者はジャーナリストだけに、移民問題や中絶問題などの掘り下げ方が上手い。幼児期に受ける環境的要因の影響の大きさに、注目されるようになったのはごく最近のことだ。
それまで遺伝は今以上に重要視されていた。その遺伝がわからないというのはどれほど不安だろうか。両親がいる自分を幸福だと思う反面、同時に血の繋がりに執着するようにできている人間の本能に少し恐ろしさのようなものも感じてしまった。

どんなに愛情深い養母でも、無意識に自分が産めなかったという反感を宿しており、子供はこの”怒り”を敏感に察知するというのだ。

そして、この孤独という恐怖から6人それぞれの闇は生まれている。

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