ロシア疑惑がモチーフの濃密スリラー「ナイト・エージェント」

マシュー・クワーク、どっかで聞いたことあるな、と思ったら、「The 500」 の著者。ロビイストの世界を描いたスリラーで、不遇な環境から抜け出すためチャンスに飛びつく主人公のマイクは、グリシャムの「法律事務所」のミッチを連想させた。

ロビイストを主人公にしたスリラーも珍しいが、今回はそのはるか上をいくレアさ(笑)タイトルの「ナイト・エージェント」とは、ホワイトハウスの危機管理室の夜間電話番のことだ。

「ナイト・マネジャー」とゴロは似ているけれども、似て非なるもの。あの小説大好きだったな〜!アマプラ配信のドラマのトム・ヒドルストンも良かった〜!

偉大な作家、ジョン・ル・カレのご冥福をお祈りいたします。


ナイト・エージェント (ハーパーBOOKS)

 

「The 500」 のマイク同様、主人公のピーターも足枷を持っている。父親が国を裏切ったスパイだったため、FBIに入ったはいいが、常に監視されており、昇進も望めず一つのミスさえも許されない。

救いの手を差し伸べてくれたのは、大統領首席補佐官のファーだった。オファーされた仕事は夜の7時から翌朝の7時までで、緊急番号にかかってきた電話を上司に取り次ぐこと。
しかし、電話はこの一年近く一度しか鳴らず、その時も直ちに上司に取り次いだため、その目的さえわからない。

そんなある夜、再び電話が鳴る。かけてきたのはローズという若い女性で、伯父夫婦が襲撃され自分は近所の家に逃げてきたという。
恐怖に怯えている彼女に、ピーターは手順を無視し救援を要請するが、それによって巨大な陰謀へ巻き込まれていく。

後書きによれば、実際に執筆のきっかけとなったのは、その前年にワシントンのホテルでプーチン大統領の元側近が不審な死を遂げたことだったそうだ。
それを受けて、2016年大統領選のロシア疑惑がモチーフになっている。
ただし、誕生したのはトランプ大統領ではなく、若いトラヴァース大統領。キャラクターも全く違う(笑)

今回の米大統領選でも、大国の干渉があったのではないか等々、色々想像しつつ読んだ。

もう一つの読みどころとしては、主人公ピーターの自分の職責と自分自身の信念への二重忠誠の葛藤だろうか。
ピーターはとても真面目で、父親のこともあって明文化されたものはもちろん、暗黙のものであっても常にルールを守る男だ。そのルールを守ることが、自分の信じたいものと相反してしまう。
程度の差こそあれ、私たちにもあることで共感できる人も多いかも。

主人公は泥臭系なのだが、クワークが描くといつもどこかスタイリッシュ。ロシア絡みなのでアクションも満載で楽しめる。

 

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