theatお久しぶりの手嶋龍一氏の小説。
「ウルトラ・ダラー」、「スギハラ・サバイバル」でお馴染みのスティーブン・ブラッドレーのシリーズの最新作。
全二作は読まなくとも、単独でも楽しめる。
一応、スティーブンのシリーズではあるけれど、彼の出番はほんの少しで、今回の主役は公安調査庁の調査員、梶(野津)荘太。
ところで、一般には全くと言って良いほど馴染みがない公安調査庁だが、れっきとした日本のインテリジェンス機関。この機関の枕詞は「最小にして最弱かつ無名」だが、その実力はそうバカにしたものではないようだ。
公安調査庁つながりで、手嶋氏と佐藤優氏の対談本「公安調査庁 情報コミュニティーの新たな地殻変動 」も併せて読んだのだが、これもなかなか面白かった。
さて、本書「鳴かずのカッコウ」、これまでのスティーブン・シリーズの二作とは少々毛色が異なる。
それは、なんと言っても主人公荘太のキャラクターによるところが大きい。
曰く、アオキのスーツにポリエステルのネクタイのその姿には覇気のカケラも伝わってこない。客の顔を覚えるのに長けた焼肉屋のおばちゃんにもスルーされるほどの地味ぶりで、あだ名は超ジミー。
だが、超ジミーはただのジミーではないわけで・・・
舞台は神戸。これまでの手嶋作品同様に華やかに彩られているが、今回は荘太のキャラと関西弁の相乗効果でかなりのほほんとユーモラスな感じ。とはいえ、きちんとしたエスピオナージでもある。
「公安調査庁 情報コミュニティーの新たな地殻変動 」でも言及しているし、佐藤氏の対談でも聞いたことがあるが、英国は小説やテレビドラマなどを国民に対する諜報活動の周知に利用しているのだそうだ。
元MI6のジョン・ル・カレもその一例だが、長く続いたテレビドラマのMI5などは、放送日にはパブから人が消えるほどの人気だったという。
小説やドラマというツールによって国民は諜報機関の役割を理解する。だから、MI5もMI6も国民からリスペクトを得ているという。
もともと手嶋作品は華やかで映像向きだと思うが、今回はさらに意識して狙っているような・・・
これは映像でも見てみたいな。
茶席でスパイ活動や和歌にメッセージを託すなど、趣味人の手嶋さんらしい演出も風流で素敵。
お茶、また習いたくなっちゃったけど、正座がね・・・
明らかに荘太(とスティーブン)の物語は、次作へと続くが、その時カッコウはもう「鳴かず」ではないだろうな。
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