違う、違う、いまじゃな〜い!「カメレオンの影」

ミネット・ウォルターズは割と好きな作家で、大体読んでいる。
「女彫刻家」や「氷の家」も凄かったし、「遮断地区」も良かった。

なんだけど、、、、
読むべきは今のタイミングじゃなかった!

どのミステリ作家にも言えることだけど、舞台設定を現代にしていれば、社会情勢も反映される。そればかりか、テーマの一つにもなっていることも多い。だからこそ、その空気感の中で読見たい。
なぜなら、現代社会は目まぐるし過ぎて、常に「今現在」はもっと差し迫った問題に追われているから。
特に今は・・・
今読むのはやや遅きに失した感があり、そこは残念だったかな。
もしかして版権がディスカウントされるのを待ってたのかしら?

 
カメレオンの影 (創元推理文庫)

主人公はイラクで顔の左半分に大怪我を負った英国陸軍のチャールズ・アクランド中尉。左目を失い、かつてハンサムだった顔も今は見る影もない。
外傷性脳損傷のせいか、明るく社交的だった性格も一変してしまったようで、両親にも元婚約者にも極端に冷たい態度で精神科医や看護師を戸惑わせる。他人に触れられると暴力的になり、事件を起こし警察に拘束されることも。
そんな折、ロンドン市内で連続して殴殺事件が起こる。いずれの被害者も軍歴のある一人暮らしの男性だ。
ロンドン警視庁のジョーンズ警視は、アクランドが怪しいと睨むが・・・
 

アクランド中尉の「ヤバイ感」すごい。不穏な雰囲気と読むものに与える心理的不安感は、さすがウォルターズ。

限りなく怪しい容疑者はやはり犯人なのかという視点で物語が進んでいくのだが、最後アレレ?という間に”見え方”が変わる。
現実にもよくあることだが、悪い奴という先入観があれば、それを覆すのは困難だ。
実際は上っ面のいい人の方がよほど腹黒かったりもするのだが(笑)

例えが微妙だが、トランプ大統領は悪人、安倍首相は悪人というキャンペーンを連日見せられれば、我々が洗脳されるのと同じこと(苦笑)
アクランド同様イメージは最低最悪だし、思想や人格にも多々問題があるが、少し視点を逸らし事実だけをピックアップするなら、彼はオバマより”人を殺してない”。
どのメディアも問題視しなかったが、実はオバマ政権下では、世界中で爆弾投下されまくっていた。
反面ああ見えてトランプはツイート上と貿易面で闘っているだけというね・・・

作中重要な役割を担うのが、ジャクソンという筋骨隆々の同性愛者の医師なのだが、彼女がナイスキャラ。

本書が本国英国で上梓されたのは2007年だったが、同じ頃「ゲイ・マネーが英国経済を支える?」という本を読んだのを覚えている。
可処分所得が高いゲイの人たちの旺盛な消費欲が英国経済に大きく寄与したという内容のものだった。実際リーマンショック まで、英国は16年の長きにわたりプラス成長を続けており、本書もそうした雰囲気の中で書かれたものだろう。

移民問題やブレクジット、そしてコロナ・・・今は当時とは比べ物にならない混沌の最中にある。英国だけではなく世界に共通することではあるが、当時だからこそ、過去に取り残されたままの者たちの存在が際立つし、まだ皆が皆を互いに慮るだけの余裕もあった。
やっぱり、タイムリーに読みたかったな。

 

 

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