闇に浮かぶ絵 / ロバート・ゴダード

今年の江戸川乱歩賞受賞作には、実はゴダードのパクリ疑惑説がある。
それで思い出して本家を読んでみたのだが、やっぱりゴダードはイイですね!

複雑な、たたみかけるかのようなプロットと意外性のある展開。
“過去の因縁が復讐する”というゴダードお得意のスキームは、ダークでありながらどこか優美。
上下巻を一気に読んでしまった。

  

舞台は19世紀のロンドン。一人の男が突然トレンチャードを尋ねてくるところから物語は始まる。
黒いシルクハットにフロックコート、銀のステッキといった上品な身なりのその男は、自分はトレンチャードの妻のコンスタンスと11年前結婚する約束をしていたジェイムズ・ダヴェノールだと名乗る。

コンスタンスは、確かに11年前准男爵の長男ジェイムズと婚約していた。しかし、結婚を目前にしてジェイムズは自殺をほのめかす手紙を残し失踪したのだ。トレンチャードは悲嘆にくれるコンスタンスを支え、二人は結婚したのだった。

ジェイムズを名乗る男は、元婚約者のコンスタンスに自分をジェイムズ・ダヴェノール本人であると保証してほしいという。
准男爵の未亡人と爵位を継いだ次男のヒューゴーは彼を偽物だとして拒絶しているというのだ。

コンスタンスは動揺し、トレンチャードは幸福な結婚生活を揺るがしつつあるこの男に強い憎悪を抱く。
しかし、その男は、ジェイムズ本人でなければ知り得ないことを知っていた。彼は関係者を「不安にさせるほど完璧」だった。

やがて彼は、准男爵家の莫大な財産の継承権を求め訴えを起こすが・・・

本書の下敷きになっているのは19世紀、実際に起きたティチボーン訴訟事件
1854年、ロジャー・ティチボーンが太平洋上で遭難し死亡認定されたが、1866年になってから自分こそがティチボーンであり、准男爵家の莫大な財産の継承者であると訴えでた事件だ。
実際起こったこの事件では、息子を溺愛していた母親は”帰って来た息子”を本人だと信じるのだが、当然知っているはずのことを知らないことが多く、その正体は肉屋のオートンであることが暴かれた。

ゴダードはそこに准伯爵家の忌まわしい血の歴史を混ぜ込み、一筋縄ではいかないミステリに仕立てている。

ティチボーンの母親にように、彼を愛していた人間ほど生きていてほしいと願うものだ。
だが、ジェイムズの母レディ・ダヴェノールは頑として彼を認めようとしないのだ。それはなぜなのか? 彼は本当は何者なのか?
人々の不安と疑惑は膨らむ中、やがて忌まわしい家族の過去が浮かび上がってくる。

タイトルも秀逸で、このダークで物悲しい物語をこれ以上なくあらわしている。
翻弄される人々の造形と、ストーリー・テーリングの巧さに唸らされる。

例の受賞作はネタはパクったのかもしれないが、出来が違いすぎ。

 

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