古書贋作師 / ブラッドフォード・モロー

「わたし」は、19世紀から20世紀にかけての作家のサイン入り贈呈本や手書き原稿の類を得意とする贋作師だ。
「わたし」は、書店を経営している女性ミーガンと付き合っていたが、あるとき、ミーガンの兄アダムが両手を切断された状態で発見され、亡くなってしまう。
ミーガンの兄アダムは「わたし」と趣味嗜好が同じ贋作師だったのだ。それも「わたし」には遠く及ばない贋作師だが。
悲しみにくれるミーガンがようやく立ち直りかけたとき、「わたし」は警察に逮捕される。警察は「罪を認める内容のわたし自身の自筆の手紙の写し」を持っていたのだ。
当然、その手紙の筆跡は偽造されたものだ。それはかつて、ヘンリー・ジェイムズ名義で「わたし」に脅迫状を送ってきた者の仕業に違いなかった・・・
一体誰がアダムを殺したのか?
「わたし」を脅迫し、陥れたのは誰なのか?
 

 
本書の面白さは、贋作師の職人としての矜持と語りの妙にあると思う。
作中、「わたし」はこんなことを思うのだ。「アダムは真似をしていたが、それに対しわたしは、創造していた」贋作といえども作品には違いなく、腕を磨いていけば時に本物以上に本物になることもある。
 
20世紀最高の美術贋作師といわれているエルミア・デ・ホーリーは、名画のコレクションとともに美術館に飾られ、長い間そこにあり続ければ、それは本物になると語った。
また、「偽りの来歴〜 20世紀最大の絵画詐欺事件」の贋作画家マイアットの”作品”はそれと知れず、有名美術館に「本物」として展示されているらしい。
 
彼ら贋作師は、自分の仕事にプライドを持っているばかりか、その作品の偏執狂でもあるのでおいそれとやめることができない。その自分自身への言い訳と自己弁護は、人間というものの性を暴かれているような気分にさせられた。
 
原題は「The Forgers」。ずばり贋作師そのものだが、fageという言葉そのものが持つそもそもの意味は、本来は「創造すること、作り象ること」だったのだそうだ。現在ではそれは、「贋造する、改ざんする」といった軽蔑的な意味に変わってしまったのだという。このタイトル自体が、「わたし」というキャラクターを体現する言葉になっているのも面白い。
 
また、「わたし」ことウィルがコナン・ドイルの信望者ということもあって、彼の作品も多く作中に登場する。ドイルファンならではの楽しみもあるかも。

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