2312 太陽系動乱 / キム・スタンリー・ロビンソン

本書は「あたぽん」のビブリオバトル頂上決戦で名古屋読書会の方が紹介してくださった本。(「あたぽん」というのは、今秋に行われた「熱海でポン!」という名古屋、横浜、千葉読書会の合同合宿のこと)

その方は泥酔状態だったため、どんな話なのかはさっぱりだったけど、ずっと読みたいと思っていたのだ。

タイトルからわかる通り、未来が舞台のバリバリのSF
著者はネビュラ賞などの常連さんで、本書で3度目のネビュラ賞を獲得している。

 

昨日だったか、ビートたけしの番組に17年間火星で暮らしていた!というキャプテン・Kという人が出ていたが、作品中の24世紀、人類はその生活範囲を太陽系にまで拡大している。

近未来、人類はそれらの問題に対処すべく宇宙へと飛び出した。長寿化技術とテラフォーミング技術の進歩によって、まずは火星、続いて水星、木星、土星への入植がすすみ、移民した人々は、わずか二世代で複数言語共同へと融合を遂げ、地球や他の星とは異なる独自の政治体として確立していった。

スペーサーと呼ばれる移民が豊かな生活を満喫する一方で、地球は相変わらず100億人という過剰人口に苦しんでいた。
革新的技術を享受し発展を続けているスペーサーと地球人との間には深刻な政治的対立が生じていた。

そんな時、水星の大物政治家アレックスが急死する。彼は、水星木星土星の連合で、地球との関係改善のための”モンドラゴン協約”のリーダーだった。
遺言で、アレックスは孫娘のスワンに封筒を木星の衛生イオのワンという人物に届けてほしいと残していた。
スワンは土星連盟の外交官ワーラムとともににイオに赴いたがその帰りに、水星の周囲を周回する移動都市ターミネーターで、土星連合の大使ワーラムとともに隕石の衝突に巻き込まれてしまう・・・


「あたぽん」のビブリオでは、
“一種の推理小説で、女っぽい人と男っぽい人がムフムフするもの”
と聞いたが、なんとなんとその通りなのである。

女っぽい人、男っぽい人というのは、ご想像の通りの両性具有。
スペーサーは、長寿化とともに両性化の処置を受けている。なので、スワンもワーラムも両方持ってる。
しかし、ロマンスかというとこれがかなり微妙だ。
スワンはまぁ中国系美形らしいが、ワーラムはヒキガエルのような容姿で、お下品な話をすれば、「2つの鍵に2つの鍵穴」だ。
ムフムフは感じるが、ロマンチックを感じるのは難しい。

本書の良さは、なんといっても太陽系に人類が生息範囲を伸ばしているという設定と現在の科学技術と齟齬ないそのディテールにある。
まず中国が率先して太陽系に入植するかもしれないというのは、リアリティがあるし、おそらく人々は長寿化処置も行うだろう。
地球が今以上に人口過剰と環境破壊に苦しむのも想像にかたくない。

また本書には、スワンやワーラムのムフムフなストーリーのなかに「リスト」や「抜粋」と題された章が差し挟まれるという面白い構成になっている。
「リスト」や「抜粋」は、作品内世界の数多の文献を引用することで、作品内で使用されている技術や歴史を解説するという役割を担っている。
最初は唐突にテラフォーミングやモザイク雌雄体というような言葉が登場し、一切の説明がないのに戸惑うが、展開が変わるタイミングである程度まとめて捕捉されるのだ。
これによってSFの弱点である「説明的でありすぎて物語に入り込めない」ことを緩衝している。

設定やディテールもさることながら描写も素晴らしいので、読み終えれば太陽系を旅した気になれるのも魅力である。

  

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