混沌の18世紀末のストックホルムが舞台の猟奇系ミステリ「1793」

アマゾンの紹介文には大型北欧歴史ミステリーとあるが、「スターリンの息子」と同じく、こちらも三部作の第一作目。
ちなみに次作は「1794」なんだそう。一年刻み作戦かな?(笑)

「1793」

18世紀末は欧州激動の時代だ。スウェーデンはグスタフ3世の中興の時代と言われるが、庶民にとっては彼の呼び名の「ロココの文化王」というわけにはいかない。
ストックホルムも現在の美しく豊かなイメージとは真逆で、不潔で混沌としており貧しい。
そのグスタフ3世はその専制的政治姿勢から一部の貴族の不満を買い、1782年に暗殺されるが、本書の舞台はその一年後の1783年だ。

四肢切断、眼球はくり抜かれ、舌も歯も全て抜かれた死体を子供たちが湖で発見するところから物語は始まる。遺体に残っていたのは、美しく豊かな金髪だけ。
警視総監の命でこの猟奇的な事件解決に乗り出したのは、法律家のセーシル・ヴィンゲ。結核に冒され余命幾ばくもない彼は、片腕の引っ立て屋ミカエル・カルデルとともに捜査を始める…

歴史ミステリというよりは、舞台を18世紀に移した猟奇系殺人ものという感じ。残酷で陰鬱極まりない事件を捜査解決するというストーリーは、馴染みある北欧ミステリそのものだ。
そしてタイムリミットも設けられている。というのも、ヴィンゲに事件を託した警視総監の左遷は目前であり、当のヴィンゲ自身はほとんど死にかけているから。

異色なのはきな臭いその時代背景だろう。文化面において評価の高いグスタフ3世は、本書では立派な人物とは言えない。
国王自身の自作自演ともいえるロシア・スウェーデン戦争で民衆は苦しみ、カルデルは腕を失う羽目になったのだ。

そういえばスウェーデンは今も立憲君主制の国。国王もいるし貴族もいる。著者もスウェーデン最古の貴族の出だというが、ちょっと貴族っぽいお顔立ち?



ヴィンゲとカルデルの二人の捜査の途中には、手紙という形をとって、ある人物の語りのパートが挟まれるのだが、ここで「やめようかな…」と。
何しろ”四肢切断に舌と眼球くり抜き”だ。そうされた過程が詳細に語られるのを読まされるのは勘弁して〜
と、思ったけれど大丈夫だった。

割と定番の北欧ミステリが核になっているけど、歴史背景を絡めて上手にその膨らませてある。ヴィンゲとカルデルの二人はもちろん、登場人物それぞれにドラマがあり抱えている悲しみがあり、それがまた読ませる。
それに1793年という一年を四季に分け4部構成に仕上げているところなんかも、ちょっと洗練されてる感じ。





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