翻訳ミステリー大賞コンベンション2016@スウェーデン大使館 Part2

ようやくメインイベントの翻訳ミステリ大賞の開票&贈賞式。
翻訳家の皆さんが投票する賞なので、一般人の私には投票権はない。プロが選ぶ賞なのだ。

今年の大賞の最終候補作は下記の5作品!

同業に選ばれる賞とあって、ノミネートされている作品の関係者はきっとドキドキだろう。
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↓リアルタイムで開票の様子。
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一票入るごとに、(エドガー・アラン)ポーちゃんの顔が貼られていく。

前半はトッムと田口センセの『偽りの楽園』『声』がリード。
でも、ここから『もう過去はいらない』 が怒涛の追い上げ・・・






そして、そ近年稀にみる接戦を制したのは、、、、

僅差ながら『声』!!
アーナルデュル・インドリダソン (著), 柳沢 由実子 (翻訳)
東京創元社 (2015/7/29)

 

 

女性票強し…『声』は、読者賞とのダブル受賞とあいなった。

柳沢さん、おめでとうございました〜!
東京創元社創立 60周年記念キャラクター「くらり」ちゃんと一緒ににっこり。
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バック・シャッツ残念。三度目の正直を狙っていた田口さんも残念。
わずか1ポー差だった。

しかし、あのレオ様だって「もうない、絶対ない」と言われつつも、遂にアカデミー賞を受賞できたのだ。

また来年の大賞を狙ってくださいまし。

休憩を挟み、本日のゲストヨハン・テオリンさんの記念講演が行われた。
スウェーデンのエーランド島を舞台にした四季4部作が『夏に凍える舟』を持って完結した記念の来日なのだそうだ。
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以下、講演内容を少しだけご紹介。

🔹日本の影響
日本の小説で影響を受けたのは、まず小泉八雲です。
八雲の描く世界は、それまでの「善と悪」の対立といったものではなく、それを超越していることが印象的でした。
二つ目は、江戸川乱歩の「芋虫」です。読んだのは40年以上昔のことでしたが、あの時のゾクゾクした感じは忘れられません。
三つ目は、8歳くらいの時に観た映画「モスラ」です。あの大きな蝶が東京を包み込む光景は今でも脳裏に残っています。

私の小説には、民間伝承を取り入れたものが多くありますが、それはこれらの影響かもしれません。

 

 

 

北欧の民間伝承に登場する妖精といえば、「トムテ」
↓トムテの人形を見せて話をするテオリン氏。
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トムテは小さな子供くらいの大きさで、三角帽をかぶっており、普段は地下や馬小屋にひっそりと住んでいるという。
トムテがいる家は繁栄するというから、日本でいえば座敷わらし的な存在だろうか。

テオリン氏のお祖母様は、このトムテを目撃したことがあるそうで、彼はその話を聞くのがきだったそうだ。
そのトムテは海に入っていったそうなのだが、彼は「もしかしてそのトムテは生き残りの一人で、ひとりぼっちが悲しくて、寂しいあまり海に入っていってしまったのかもしれない」などと想像したという。

 

🔹スウェーデンの犯罪小説について
1960年代までのスウェーデンの小説家は、主に英米の影響を受けていました。
チャンドラーなどに影響され、いかにもアメリカ的な小説を書いていたのです。

しかし、マルティン・ベックシリーズのマイ・シューヴァルと ペール・ヴァールーが登場してから、ガラッと変わりました。
彼らはスウェーデンの現実を書きました。昨日まさにストックホルムで起きた犯罪を書いたのです。
そこからスウェーデンの人々は、スウェーデンの現実に目を向けるようになりました。
それとともに、1986年2月に起きた「オロフ・パルメ暗殺事件」はスウェーデンの人々に大きな影響を与えました。
パルメがストックホルム中心部から、SPもつけずに帰宅する途上で銃撃されたこの事件は、これまでスウェーデンは安全な国だと信じていた国民にとってのトラウマとなりました。

その後、ヴァランダーシリーズのヘニング・マンケルが登場し警察小説は醸成していきます。マンケルのヴァランダー・シリーズは、世界中でヒットしましたが、まず、スウェーデン国内で熱狂されました。
思うに、スウェーデンの人々には、「パルメ暗殺」のトラウマ克服ために、犯罪小説、警察小説が必要だったのかもしれません

H・マンケルは、残念ながら昨年急逝してしまいましたが、彼の存在がなければ、私が今こうして皆さんの前に立っていることはありません。

 

🔹作家としての自分とエーランド島四季4部作
偉大な先達の影響を受けてはいるものの、作家として私は、自分だけのオリジナルなものを描きたいと考えていました。

同じ犯罪小説でも、事件そのものやそれを解決する警察官に焦点を当てるのではなく、被害者に焦点を当てようと。
そして、幼い頃を過ごした母親の故郷エーランド島を舞台にしてみようと思ったのです。
エーランド島は夏と冬で全く印象が変わります。夏の間は数十万のバカンス客で賑わいますが、秋の訪れとともに閑散となるのです。
また、事件の解決役に、警官ではなく漁師のおじいさんを使ってみようと考えました。私の母方の祖父こそがイェルロフのモデルなのです。

この四季4部作の第1作目の『黄昏に眠る秋』は、西海岸に住んでいるときに聞いた話をもとにしています。
それは殺人を犯した息子の逃亡を幇助した家族の話でした。
息子を海外に逃した10年後のある日、家族のもとに棺が届いたのです。
家族は息子は死んだのだと思い、警察もまた殺人犯は死んだとみなすことで事件は終わったのですが、なぜか家族の元には毎年、差出人のない手紙が届くのです。
もしかして、息子は生きていているのか?結論が得られませんでしたが、物語のなかでは、イェルロフに謎解きをさせてみました。

その後、『赤く微笑む春』の内容なとに少し触れて、講演は終了。
テオリン氏は、この日到着したばかりで、次の日もまたイベントが入っているというハードスケジュール。
お疲れ様です。
イベントが終わったら少しはゆっくりできるのかな?東京観光でもしてくださいませね。

 

大使館でのイベントは全て終了。
懇親会会場に場を移し、出版社対抗ビブリオバトルのはじまりはじまり!

ビブリオバトルとは、5分で本を紹介し、読みたくなった本(= チャンプ本)を投票して決定するという書評合戦である。

今年は下記版元の方々が近日発売のイチオシ本をひっさげ参戦した。

東京創元社:『埋葬された夏』 キャシー・アンズワース
早川書房:『象牙色の嘲笑〔新訳版〕』ロス・マクドナルド
藤原編集室:『エラリー・クィーン 推理の芸術』フランシス・M・ネヴェルズ
扶桑社:『我が名は切り裂きジャック』スティーヴン・ハンター
文藝春秋社:『背信の都』ジェームズ・エルロイ


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↓ 熱弁をふるう各社の皆さま。
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そんな熾烈なビブリオを制したのは、、、、
東京創元社の『埋葬された夏』!

文庫で5月20日発売予定とのことです。
ということで、ようやくカンパ〜イ!

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運営の皆さん、参加された皆さん、お疲れ様でした。
地方の読書会の方々ともお話できて楽しかったでごさいます。

 

 

 

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