「歴史の証人 ホテル・リッツ」が見たシャネルの人柄、王冠を賭けた恋の行く末。

1898年にセザール・リッツと歴史に名を残すシェフ、オーギュスト・エスコフィエが開業した豪奢なこのホテルは、ナチスドイツのパリ占領時代も開業を続けフランスにおける中立地帯だった。

占領時、ヴァンドーム側はナチスドイツの高級将校たちの豪華な住まいとなり、カンボン通りに増築された現代的な建築物は各国の貴族や王族、作家、才能ある芸術家や映画スターなどの著名人たちが贅沢に暮らしていた。

敵味方の混じった呉越同舟状態の社交界が形成されていたのだ。
鉤十字の旗がエッフェル塔にたなびき、パリの空は砲火で明るくなっていても、リッツのなかだけは別で普段通りだったという。

「歴史の証人 ホテル・リッツ 」は、パリ占領時代の物語であり、人間の複雑さとドラマを描いた歴史の物語である。
ここには、多岐にわたり膨大な登場人物たちが登場する。若き日のマルセル・プルースト、フランスの女優アルレッティ、ヘミングウェイ、シャネル、ウィンザー公爵夫妻。

なかでも印象に残ったのは、ココ・シャネルの人柄と、「王冠を賭けた恋」のウィンザー公爵夫妻のエピソードだ。

占領中ナチに協力したパリ市民の多くは、戦後その代償を払わされた。
一番のはずかしめは「残虐な粛清」と呼ばれ、ナチと寝た女に対するものだ。裸にされ、髪を刈られ、暴力を受けレイプされたのだ。彼女たち売春婦は客と寝るのが仕事だったが、一番弱いものが一番責められたのだ。
その後続いた「合法的粛清」では、ホテル・リッツの顧客の多くが含まれた。リッツに出入りしているということはナチと交流があるということは周知の事実だった。おおっぴらにナチとの交際を隠そうとしなかった女優のアルレッティなども粛清の対象にされた。

しかし、シャネルはそれを逃れることができた。ナチやファシストと寝ただけの女優と違い、彼女の問題はより深刻だったにもかかわらず。

リッツ支配人夫人でユダヤ人のブランチは、シャネルが大嫌いだったようだがそれも納得できる。(ココのファンの方にはごめんなさいだが、時に才能と人柄は異なるものだ)

彼女は、若い頃はきわどい演技をするキャバレーの踊り子で、積極的に金持ちの愛人となり、自分自身が事業に成功してからは、ナチのユダヤ人狩りにかこつけて、自分の事業の共同出資者のユダヤ人を陥れようとしたという。

彼女がユダヤ人の運命になど全く興味がなかったのは明らかな事実だが、深刻だったのは、愛人のナチ将校を通じてドイツの政治的陰謀に関わっていたかもしれないということだった。また、シャネルがナチのスパイだという説もあった。
ただ、シャネルは彼が実は英国の二重スパイだった可能性とチャーチルからの口添いの手紙といった幸運で粛清を免れられた。

パリの多くの人々が、自分たちのしたこととしなかっったことの双方と向き合うことになったが、彼女はどうだったのだろう。

もう一つの興味深いエピソードは、「世紀の恋、王冠を賭けた恋」の顛末である。これは、「王冠を賭けた恋」で知られるウィンザー公爵夫妻のイメージを覆すものだった。

エドワード8世は、二度の離婚歴のあるアメリカ人女性ウォリス・シンプソン夫人と結婚するために王位を捨てたが、実はその後再び彼女のために王位を手にするチャンスをふいにさせられている。
それは、ウォリスが若い恋人と浮気をしていたからだった。

退位演説で彼は、「愛する女性が側にいない人生は想像できない」と言い切ったが、その愛する女性は10年も経つと他に好きな男ができ、彼自身も王位に対する未練を抱くようになった。
ジョージ6世が逝去したときのエリザベスはまだ若く不安定だったので、公爵の味方をしてくれる貴族もいたという。
もちろん国民はウォリスのことをよく思っていなかっただろうが、彼らにこれ以上スキャンダルがなければ受け入れられると支援者たちは考えていたのだ。

ところが、公爵がロンドンへ行っている間、ウォリスはプレイボーイの富豪のアメリカ人男性にのぼせあがり、自分たちの「情事」をひけらかすという失態をおかす。
パリを騒がせたスキャンダルは、公爵が王位につくという二度目のチャンスを奪った。

その後、夫妻は離婚することなく引退生活に入ったが、どういう夫婦関係だったのだろうか。
公爵の人生をなぞる限り、後世に良き王として称えられた弟に王位を譲ったのは、英国にとって正解だったのかもしれないと思えてくるが。

同時に思うのは、どんなに大きな犠牲を払った恋であっても、それが変わらないという保証はどこにもないということだ。

長年の不倫関係にあったカミラ夫人とチャールズ皇太子は、どのような夫婦としてその晩年を過ごすのだろうか。

リッツは激動の時代を生き抜いたが、戦争が終わる頃にはその老いを隠しきれなくなる。
古い時代は去り、パリは世界で唯一の場所ではなくなっていた。
客室の稼働率は下がり、長きにわたって支配人を務めてきたオーゼロの自殺に幕を閉じようとしていた。

経済破綻の崖っぷちに追いつめられていたリッツを救ったのは、エジプト人実業家のモハメド・アルファイドだった。
ダイアナとともに事故死したドディの父親である。

 

 

 



 

 

 

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