誰も幸福じゃない資本主義の末路は…「アンダークラス」

年末から、たまには趣向を変えてドメスティックなミステリを読んでいる。黒川博行の新刊「騙る」に始まり、本書「アンダークラス」

 

アンダークラス

割と突っ込みどころが多いとはいえ、なかなか面白かった。
しつこく地道な捜査が信条の田川刑事を主人公にしたシリーズものらしいが、この本から読んでもなんの支障もないと思う。

テーマはずばり暴走資本主義の行方ではないだろうか。
世界と比して日本人が貧しくなっている点も強調されているが、もうそんなことは一人当たりGDPの順位を見れば分かり切っている。しかし、まだ逆に一概にそうともいえない部分もあると思うのだが・・・

物語は、秋田の田舎の老人ホームに暮らす85歳の女性が、ベトナム人介護職員に殺害されるところから始まる。
ベトナム人介護職員アインは、身寄りもなく末期の膵臓癌の彼女に懇願され、車椅子ごと川に突き落としたのだという。
田川は自分の娘ほどの年齢のキャリア樫山に頼まれ、彼女とともに人探しをしていた矢先だった。樫山が探していた人こそが、ベトナム人のアインだったのだ・・・
アインの供述に怪しいところはなく、自殺補助で片付きかけたが、田川は被害者の老婆の手の形に不審な点を見つける。それは自殺を覚悟した人間の手の形ではなかった。
ごくわずかな疑問を出発点にして、やがて田川と樫山は世界的IT企業サバンナの日本人幹部山本までたどり着くが・・・

あらすじから分かる通り、ミステリーとしてより社会派小説としての色彩のほうが強い。

日本が人手不足業種を補うために招聘している、ベトナム人をはじめとした技能実習生への扱いを始め、川上の企業が下請けに無理を強いる構図に焦点を当てている。
世界的IT企業サバンナというのは、ずばりアマゾンのことだ(苦笑)
顧客満足最優先を謳う、かの巨大企業は我が家にとってはもはやインフラだ。顧客が求める低価格、スピーディーな発送をかなえるために、下請け企業がどれほどの無理を強いられているのかは想像に難くない。ただ、トヨタのかんばん方式に見られるように、アマゾンだけがそれを行っているわけでもない。

技能実習生の給料が安いのも、私たち消費者が安いものを求めるからだ。
安いものを、安いものをと求め続けてきた結果、30年前より牛丼も洋服も安くなったが、労働者の給与もまた伸び悩んでいる。
給料が増える見込みがなければ、結婚にも出産にも及び腰にならざるを得ない。少子化が加速する一方、国民皆保険のおかげで高齢者の寿命は伸び続け、それがまた現役世代にのしかかる。

物語の纏め方としては、巨大IT企業の山本が悪いということになっているし、実際そうなのだが、感想としては山本もまた犠牲者なのではないかなぁと・・・

現代は苛烈な競争社会。学歴に始まり、大企業に就職できても、企業は今では昔のように一生面倒を見てくれる余裕はない。
このコロナ禍でも明らかにされたように、現在中流層の人々も、いともたやすくアンダークラスに転落してしまう。
将来への不安から、日々節約し貯蓄に励むが、皆がそれをすれば経済は縮小の一途を辿る。合成の誤謬だ。デフレからも脱却できず、給料もさらに下がる悪循環をうむ。

勝ち組の人も、本書の山本のように、日々生き残りをかけた競争に身を晒し続けなければならない。周囲を見渡しても、高収入は高ストレスの裏返しだ。

翻って、85歳の女性を見れば、生まれ育ちによって計り知れないほどの苦労はしたけれども、それでも老人ホームに入るお金(決して安くないはず)は残せたんだよなぁとか・・・

著者は、少しくどいほどアインに「日本人は貧しい」と繰り返させているけれど、それは紛れもない事実。でも、じゃあ日本以外の先進国の人々はどうかといえば、さらに苛烈な格差社会でセイフティネットも脆弱であるのもまた事実なのではないか。

日本人は一億総中流の頃が一番幸福度が高かったのかもしれないが、黄金期はもう巡ってこないわけで・・・

首都圏は感染爆発ともいえる状況で、ついに2度目の緊急事態宣言も出てしまった。
こうした暗い状況下で読む類の内容ではないけれど(苦笑)今なら、期間限定で40パーセント分のポイントがつくそうです!

 

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