フィクション

明日と明日 / トマス・スウェターリッチ

2016-02-02

年末DLしておいた『明日と明日』 をやっと読んだ。Amazonの内容紹介では「近未来ノワール」とあり、確かに暴力的でもあるが探偵小説の情趣もある。

ピッツバーグで起こったテロで妻を亡くした男の物語なのだが、テロと聞くと、「また911のネタね…」という気分になってしまう方も安心してほしい。印象を完全に裏切り、あなたの想像するものとは全く違う展開になるから。

フィリップ・K・ディック、チャンドラーなど、少々ツギハギ的なきらいはあるが、印象に残る作品。含みあるタイトルも私は結構好きだ。
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舞台は近未来のアメリカで、人々は「アドウェア」という端末を脳に直接埋め込み、拡張現実感を得ている。人々は今よりもさらにメディア化された世界に生きているのだ。
それは、まさに頭の中にスマホがあるようなものだ。例えば、私がある人をみるとしよう。その人がプロフィールを公開していれば、その公開プロフィールが視界の端に出る。物をみれば、関連づけられるものの企業広告やロゴがポップで出てくるのだ。映像も脳にダイレクトに入ってくるので、現実感がある。

そして、偶然にも監視カメラや網膜カメラに捉えられたら最後、「忘れられない権利の法」で、その人たちの情報は<市>のアーカイヴに収められることになる。

本書の主人公は、10年前、大都市ピッツバーグを消滅させたテロで妻を亡くしたドミニクという男だ。ドミニクは、死んだ妻、テレサ・マリーに会うためにアーカイヴに没入していた。そこでもう一度妻と生きるために。
彼は、<市>のアーカイヴで保険調査を行う調査員だったが、ある時、薬物乱用で逮捕されてしまう。薬物は「アドウェア」の現実感をより増してくれるのだ。
彼は矯正リハビリプログラムに送られるが、そこで仕事のオファーを受ける。依頼主はウェイヴァリーという有力者。もしその依頼を受ければ、セラピーを受ける必要もなく、前科をもみ消すことさえできるというのだ。
一も二もなく申し出を受けるドミニク。ウェイヴァリーによれば、亡くなった彼の娘アビニオンが突如としてアーカイヴから消えてしまったのだという。誰が彼女を消たのかと突き止め、アーカイブに復元してほしいというのだった。

ドミニクのいとこのガブリルは、その依頼そのものに疑問を呈する。なぜならウェイヴァリーはあの「アドウェア」の開発者なのだ。ドミニクは優秀な調査員かもしれないが、彼ほど裕福な人間なら、調査会社丸ごとだって買えるはずだ。なぜ、わざわざリハビリプログラムから引き抜いてまでドミニクに仕事をさせるのか?

そして、ドミニクがアーカイブを訪問している最中、謎の男が現れて・・・

上記は、あとがきで訳者が紹介してくれている映像作品。これを参考にして、著者はメディアが飽和状態となった世界を描いたのだという。

本書の世界ではアーカイブを訪問することで、過去の世界に生きることもできる。
この世界では、死者を忘れなくても良いのだ。
だが、それを悪用するものも当然でてくる。例えば、幼児のレイプシーンを頻繁に訪問するペドのような倒錯者も多くいるだろう。彼らのような被害者は、一度ならず、終わりない蹂躙を受け続けることになってしまう。

物語の中では、「忘れられない権利の法」が施行されているが、前述のような幼児やその関係者の権利はどうなるのだろう。
この種のテクノロジーは、近い将来実現可能であるがゆえに考えさせられる。

訳者の方も指摘しているが、ペプシ、ホーホーズ、ナイキ・・・数多く登場する現実世界の固有名詞は、さながら情報の渦だ。さらに、原文にはやたらとー「ダッシュ」が多用されているそうなのだが、それもまたメディアの飽和状態の効果を狙ったものなのかもしれない。
ただし日本語版は読みやすいよう配慮されている。

ラストも余韻を残す終わり方。映画化権も売れたそうだが、映像でもみてみたい作品。

 

 

 

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