オランダ黄金時代の女流画家の絵画をめぐる素敵系物語「贋作」

本書「贋作」は、タイトルの通り”オランダ黄金期の女性画家の絵をめぐる素敵物語”。
素敵かどうかは個人差があるとは思うが、絵画や小説をその画家や作家の背景を含めて楽しみたいという人はタイプなのじゃないかと思う。

オランダ黄金期といえば、フェルメール、フランス・ハルス、レンブランントで有名。いずれも男性画家ばかりだが、当時の画家の組合(聖ルカ組合)には少数ではあるが女性画家も参加していたという。
本書で重要な役割を果たすのは、女性画家として聖ルカに初めて加入を許されたサラ・デ・フォスと彼女が残した「森のはずれにて」という風景画だ(画家も絵もフィクション)

Hendrick Avercamp

この「森のはずれにて」はニューヨークのアッパーイーストに住むオランダ系資産家のマーティ・デ・グルートの所有となっていたが、彼はある時先祖代々伝わるこの絵が「贋作」とすり替えられていることに気づく。
「贋作」を描いたのは、オランダ黄金時代を専門にする大学院生エリーだった。絵画修復家として優れた技術を持っていた彼女は、知り合いの画商に半ば騙された形でこの絵の複写を行ったのだ。
マーティは私立探偵を雇って贋作を描いたのがエリーだと突き止め、正体を偽って近づくが・・・


贋作 ドミニク・スミス 

ぶっちゃけていえば、恵まれた境遇ながら中年の危機にある男と絵画以外のことはなにも知らない女の恋愛の物語。
エリーは贋作に携わってしまったことをずっと悔やみ続け、マーティはマーティでエリーにしてしまったことを悔やんでいた。二人とも後悔に苛まれつつ自分の人生を送るが40年余りの時を経て融雪に至るのだ。

マーティが既婚者でエリーよりも随分上で、しかも正体を偽った上での交際だったため、女性目線でみればとんでもない話に思えるだろうが、なぜか全く陰湿さはない。エリーもさることながらマーティも決して悪い人間ではないからだ。訳者もエリーを騙して贋作を描かせた画商を除けば、犯罪者はいないと述べているが、それがこのお話の素敵ポイントなのかもしれない。
そして、より素晴らしく仕上がっているのは、これに「森のはずれにて」の作者サラの物語が重ねられて描かれているからだ。
17世紀のオランダに生きた不遇の女性画家サラがどのような経緯であの絵を描くに至ったのかが。

エリーの物語とサラの物語は、その時間軸はもちろんのこと直接の繋がりはないのだが、セレンビリティを感じさせる。そして物語の重なりの調和が美しい。
絵画をきっかけにして三者三様、運命と選択、そして結果が三位一体となって織りあがっている。

原題は「The Last Painting of Sara de Vos サラ・デ・フォスの最後の絵」。この「最後の絵」がもたらす奇跡も美しい。

 

  

 

 

 

 

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