さようならリスベット!「ミレニアム6 死すべき女」

故スティーグ・ラーソンの後を引き継ぎ、スウェーデン屈指の人気作家ダヴィド・ラーゲルクランツが新しい「ミレニアム」を届けてくれていたが、ついに最終章を迎えてしまった。


   
ミレニアム 6 上: 死すべき女
ミレニアム 6 下: 死すべき女


ラーゲルクランツのリスベットは、以前に比べると積極的になった。
「猫になる。ネズミじゃなくて」という言葉通り、彼女はもはや狩られる獲物の如く追い詰められるのを待つのではなく、自分の方から攻撃を仕掛けるようになった。

猫になったリスベットにとって、現時点での自身最大とも言える敵は、二卵性双生児の妹のカミラだ。

カミラはラーソンの「ミレニアム」では確か過去の回想シーンにチラリと出てきた程度だったと思う。
それが「ミレニアム 4」では肉付けされ、残忍で美しい女として華々しく登場した。
父ザラチェンコによる母への絶え間ない暴力を目の当たりにして育った双子は、しかし全く違う影響を受けていた。リスベットは母に、カミラは父にそれぞれつき、二人は互いに憎しみ合っている。

今はキーラと名乗るカミラの登場シーンは今回も鮮烈だ。
ディオールの黒いドレスに、グッチの赤い靴。胸元にはかの「オッペンハイマーブルー」のダイヤモンドが煌めく。

オッペンハイマーブルーはダイヤモンド採掘界の重鎮、故フィリップ・オッペンハイマーが所有していたブルーダイヤで、2016年に匿名の人物によって史上最高額で落札されている。

靴はルブタンかマノロの方が良かった気がするが(笑)、それはさておき、カミラは“見るものを打ちのめす”ほど美しい。



物語は、ストックホルムの公園で発見された身元不明のアジア系の男の遺体の件と、この因縁の妹との対決が同時並行して進んでいく。

真夏にもかかわらずダウンジャケットを着込み、頬は黒ずみ、指も何本か欠損していた遺体は、検視の結果他殺が疑われた。彼のポケットにはミカエルの電話番号を書いた紙があった・・・

ストックホルムの遺体の件はミカエルの、キーラ(カミラ)の件はリスベットの事件で、一見なんの関連性もない。
しかし、この二人が切っても切れない絆で結びついているために物語は絡み合っていく。

「ミレニアム」のシリーズはリスベットとその家族、父親のザラチェンコ、異母兄ニーダーマン、そして妹のカミラをめぐる家族間の憎悪と復讐の物語だ。
今回、それを憎しみだけで終わらせなかったのはさすがだと思う。そうでないとリスベットがリスベットではなくなってしまうから。

そして、古典的家族間の愛憎劇をベースに、社会問題を盛り込み、それに科学的トピックが取り入れてある。
社会問題は終始一貫「女性への暴力、人権」だ。ジャーナリストとしてのラーソンのライフワークだったのだろう。
現代性を与えてるのが科学的トピックだ。
これは情報収集力に優れたラーゲルクランツになって与えられた美点かな?
「ミレニアム4」では人工知能、「ミレニアム5」では遺伝子が人格に与える影響と誰もが興味を持つ情報を最新に近い形で盛り込んである。
本書では、その遺伝子にかかる情報をさらに絞り込んであるが、
それだけでも十分読ませる内容になっている。
ミカエルとリスベットが、それを手掛かりに遺体が誰なのかと突き止めていく過程は、少しCSI的な面白さもある。

 
本書をもってラーゲルクランツによる「ミレニアム」は終了するとのこと。伏線はほぼ回収し終えたし、出来も期待以上。
ああ、本当にもう終わってしまった。

訳者によると、現時点では「ミレニアム」が今後他の作家の手によって続いていくのか否かは未定だそうだ。

名残惜しいが、良い物語は終わりどきを誤らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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