生と死にまつわるいくつかの現実 / ベリンダ・バウアー

ベリンダ・バウアーは、今一番旬なクライム・スリラー作家かもしれない。いかにも女流作家的ではなく、ちょっと風変わりでかなりダーク。
本書は作者が執筆中から「これまでで最もダークな作品になる」といっていたらしい

本書の主人公は、ルビー・トリックという10歳の少女だ。赤毛で太めの彼女は、イギリズ南西部デヴォン州の海岸沿いの村、ライムバーンに住んでいる。
ルビーの父親ジョンはかつては造船所で働いていたが、今は仕事をしていない。釣りをしカウボーイの真似事をするのが彼の生活。一家の家計は母親のアリスンが町のホテルでシェフとして働くことで賄われている。だから夫婦喧嘩が絶えない。
現実逃避するかのように、ジョンは金曜の夜になるとカウボーイの格好をし仲間とバーに集う。パパっ子のルビーの夢は、大人になったらカウボーイになることだ。

そんなルビーの村で若い女性を狙った連続殺人事件が起きる。被害者は皆一人でいるところを狙われ、服を脱がされ母親に電話をするよう強要されていた。ただ皆、暴行は受けていない。
ジョンは、犯人を捕まえるため仲間と民警団を立ち上げる。そして彼の「追跡」に同行するのだった。
一方、私服刑事になったばかりのカルヴィンは、年上のガールフレンドに結婚を決められ、いまいましく思っていた。

犯人はは、物語の中盤であっさりと明かされる。謎解き云々ではなく、心理的なものに重きが置かれてかかれているのだ。
ルビーの「パパに愛されたい」という気持ちと、残酷な現実が読んでいて痛ましい。救いになっているのは、カルヴィン刑事の存在だろう。

このカルヴィン、前作の『ラバーネッカー』 のパトリックほどではないが、かなり変わっている。(パトリックはアスペルガー症候群)
制服にアイロンをかけるのが嫌で私服刑事になったカルヴィンは、「楽だから」と年上のガールフレンドと付き合い続け、彼女と諍いたくない一心で、結婚にイエスと言ってしまう。その場しのぎを繰り返す挙句、がんじがらめになっている。
そんなカルヴィンがいい味を出しているのだ。自分にもそういうところがあるので、妙に共感してしまった(笑)

あとがきにによると、原題である「 The facts of Life and Death」のfacts of lifeは、「避けがたい人生の現実」という意味を持つという。
少女ルビーは、この「避けがたい人生の現実」を受け入れることによって、大人の階段を登るが、単純に「めでたし、めでたし」というわけでもない。

一見、少女が困難を乗り越える成長物語のように見えて、そういうわけではないのが本書のダークなところなのだ。
意味深な最後の二行はもちろんのこと、苦しい家計をやりくりしていたはずの母アリスンがなぜティファニーやガラードといった高級ジュエリーを持っていたのか。

ジョンのいう「女っていうのは、しょうがないんだ。な、ルビー」というのは、あながち間違いではないのだ。

 

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