美しいけれども。けれども…?ドット・ハチソン「蝶のいた庭」

新鋭女流小説家による話題作なのだが、1月上旬にDLして読み始めてみたものの、なんだか気乗りしないため放置してしまっていた。
とはいえ、せっかくお金を払ってDLしたのだし、アマゾンコムだと大人気のようだし、三部作構成でもあるらしいので読んでみた。

 

下地はジョン・ファウルズの「コレクター」
孤独な男の倒錯した愛を描いたこの作品は、映画化もされ主演女優はアカデミー賞に輝いた。

ただ、本書はもっともっともっともっと女性視点で女性好みなつくりのエンタメになっているが。犯人も含め美男美女しかでてこないのも少女漫画的。
アマゾンドットコムで五つ星を献上しているカスタマーの実に9割は女性なのではないかな?

 
「蝶のいた庭」というタイトルの通り、女性が犯人に捕らえられているのは蝶の舞うガラスで覆われた美しい庭。
そこに捕らえられているのは、主人公で語り手のマヤだけではない。他に20人以上おり、皆16歳から20歳で背中にはそれぞれ大きく蝶のタトゥーが入れられている。
手入れされた美しい庭に、それぞれの個性に合わせた蝶のタトゥーを入れた美女たち。この倒錯の美の世界はさぞ映像映えすることだろう。

物語はその蝶のなかの一人、マヤが被害者としてFBI捜査官の聴取を受けるかたちで彼女の回想とともに展開されていく。

そこは一体どういう場所だったのか?犯人はどういう人物なのか?
いかにして彼女たちは逃れることができたのか?
そして、一癖も二癖もある彼女自身が隠していることは何なのか?

この形式はある意味では新鮮かもしれないが、でもこの手法をとるならば、一番最後の疑問、「マヤが隠していること」が最も重要だ。読者には最初から「蝶の庭」に何かが起き、マヤが無事であることはわかっているのだから。
そのマヤの秘密に驚くべきものがなければ、やはり全体としての評価は下がってしまう。正直、私は少々がっかりした。

読みやすいし、読ませるものもないわけではないが、いまひとつ”蝶たち”の悲劇性も希薄で心理的恐怖感もさほど感じられなかったかな。

オマージュ作品が元祖を上回ることはそうそうない。
比べるのも忍びないが、クレッグとミランダの双方の語りの妙、両者の階級差、クレッグの不気味さとサイコパシーの変化等々、元祖に圧倒的軍配があがる。

ただし、何度もいうが女性読者好みなのは間違いない。
なにせ、エロもグロもスプラッタも、糞尿にまみれることもない。
おそらくこの著者自身もヒロインの気分を味わうことを存分に楽しんだはず。

 

  

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