出口のない農場 / サイモン・ベケット

私も追いつめられているが、本書『出口のない農場 』の主人公ショーンにも文字通り出口がない。

舞台は太陽がギラギラと照りつけるフランスの田舎町。
イギリス人青年のショーンは何かから逃げるようにこの地へたどり着いた。彼には先の計画など何もない。
そのうえ、狩猟用の罠に足を挟まれて大怪我を負ってしまう。
農場の娘マティルドに助けられ、傷が治るまで農場の納屋で療養することになるのだが、このアルノー農場の様子はどこか普通ではない。
周囲はぐるりと有刺鉄線で囲んであるし、敷地内は侵入者を防ぐための狩猟用の罠があちこちに仕掛けてあるのだ。
それにマティルドは、傷の手当を終え納屋を出て行くときには必ず閂を掛けるのだ。

この農場は独裁的なマティルドの父のルールで成り立っていた。
次第にショーンは自分が怪我の療養しているのか、囚われているのかがわからなくなってくる。
農場は、まだ赤ちゃんのマティルドの息子ミシェルと、彼女の妹、グレートヒェンが暮らしていた。マティルドの母は亡くなったらしいが、マティルドの夫のことは全く話題には登らない。

何とか歩けるまで回復したショーンは農場を出て行こうとするが、マティルドからここで働かないかと持ちかけられる。
考えてみればここは身を隠すには最適の場所だ。それに足が完全に回復するまでじっくりと考える時間も必要だ。
かくして、ショーンはアルノー農場に留まることになるのだが、次第にこの農場が町の人に酷く嫌われていることを知る。
それに、なぜマティルダはあんなに暗い目をしているのか。

アルノー農場の秘密とは何なのか?
そもそもなぜにショーンはロンドンから逃げ出さなければならなかったのか?

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現在進行形のアルノー農場での出来事と、ロンドンでのショーンの過去が交互に語られ物語は進行していく。

なぜショーンは逃げているのか?どんな秘密が隠されているのかもわからないまま、読者は彼と共に農場にとらわれていく。

不穏な気配のなか、状況もわからないまま、読者はショーンとともに囚われの身となっていく。そしてアルノー農場にもまた隠された秘密が・・・

一言でいえば、本書は、暑くて臭くてなんだか不安にさせる小説だ。

この農場の巨大な種豚は、『ハンニバル』のある場面を彷彿とさせるし、雌のサングロションを潰すシーンはなかなか血なまぐさい。

あまり書くと楽しみを削いでしまうのでこの辺にしておくが、この豚とアルノーのような人間との差は何なのだろうかと思ってしまう。

 

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