ナイスヴィル 〜影が消える町 / カーステン・ストラウド

昨年は「ピルグリム三部作」今年は「パインズ 三部作」がよかったが、来シーズンはコレ!「ナイスヴィル3部作」ではないかと思う。
最近はなんでもかんでも三部作で、読書会でも「三部作多すぎ!」という声も聞かれるほどだが、私は割と長い物語が好きなのだ。長い分、起伏も奥行きも持っているし味わいも深い。暇というのもあるけど。

 

一品料理が好きかコース料理が好きか、そこは好みの差だろうが、本書はたとえラーメン一筋であっても、ホラーが好きならば絶対に読んでおきたい。

 

舞台はアメリカ南部の田舎町、ナイスヴィル。この町は、その名「美しい町」になっていたはずだった。重くのしかかるタルーラ岸壁の影に作られていなければ。
岸壁の奥にはクレーターシンクと呼ばれる巨大な湖があり、一旦そこに落ちたものは二度と出てくることはない。

物語は、10歳のレイニー・ティーグ少年が忽然と姿を消すところから始まる。レイニーは、この町の”創立4家族”のひとつティーグ家の養子だ。

レイニーの母親の通報により、速やかに全州規模の捜索が開始される。これほど大規模に捜索されたのは、この町の行方不明者が全米平均の5倍にものぼるからだ。
調べによれば、レイニー少年は下校途中、唐突に姿を消していた。
やがてレイニーは絶対ありえない場所で発見されるが、昏睡状態に陥っていた。そして彼の両親も相次いで謎の死を遂げ、続けざまに裕福なコットン家の女主人デリアもが行方不明になってしまうのだった。

物語は、レイニー少年の生還と”創立4家族”の人々の死と失踪の謎を中心として展開していくが、これが一筋縄ではいかない。
妻子を虐待していた男のどす黒い思惑、元警官らによる銀行強盗など、一見群像的な別々の物語が複雑に絡み合っていく。そして、ナイスヴィルの町に巣食う”邪悪なもの”に飲み込まれていくのである。

この不可解な事件を担当するのが、主人公となるニック・カヴァノーだ。元特殊部隊という経歴のニックは、キャリアを捨てて創立4家族のウォーカー家の娘ケイトと結婚しこの町に落ち着いたのだ。

一連の不穏な出来事は、大昔にこの町で起きたことに起因していると思われた。そして、それは明らかに”創立4家族”を憎んでいる・・・
果たしてナイスヴィルの町に何が起ころうとしているのか?

あまりにも潔い章ごとの切り替えに最初はとまどう方もいるかもしれないが、上巻の半ばまでいくと、もう中断することができなくなる。
南北戦争時代にまで遡る旧家にまつわる後ろ暗い秘密と、現在の町で巻き起こる悪意による暴走。それらがどう繋がっていくのか「知りたい」という気持ちが抑えられなくなる、久々の一気読み徹夜本。

ところで、本書の著者ストラウドはフィクションとノンフィクション両方で質の高い作品を生み出している作家だが、本作は彼の初のホラー小説なのだそうだ。
ノンフィクションでも高い評価を得ているだけあって、対象との距離が絶妙。ホラーということで、比較されがちなキングとはこの点が決定的に違う。

キングは前のめり気味に執拗に畳み掛けるように描いていくが、ストラウドは身を少し引いて描いている感じ。神視点というか、そこにはある種の冷静さが伺える。ただ、それが良い効果を生んでいるのも事実で、ワシントンポストのレビューは、「ヒエロムニス・ボスの絵画を連想させる」と表現しているそうだが、確かになんとも表現しがたい気分にさせられる。人間というものの「滑稽さ」を冷静に眺めている自分に気づくのだ。

私は最初、本書が三部作の一作目だとは知らずに読んだので、「え??こんな終わり方?」と思ってしまったのだが、これが三部作の序章にすぎないとなれば、期待値が違ってくるというもの。
奇抜でシュールな視点で聖邪を見つめたヒエロムニス・ボスの絵は今なお謎に包まれてたままだが、ストラウドはナイスヴィルをどう料理していくのか。
本作だけで、かなり伏線を張り巡らせ、大風呂敷を広げてしまった感もあるが、とにかくはやく続きが読みたい。

 

 

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