ネルーダ事件 / ロベルト・アンプエロ

接戦となったW杯決勝はドイツが制した。
アルゼンチンは惜しくも破れてしまったが、なんと暴動が起きたのだとか。サッカーに関して南米は異様に熱くなるよね。南米に限らないけど。

本書はそんな南米はチリを舞台にした小説。訳者曰く、”ラテンアメリカ的混沌”な小説だ。バブロ・ネルーダという偉大な詩人の生身の人物像に迫った力作とのことで、背景にはチリのクーデターも描かれている。

ネルーダ事件 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ところで、チリといえば、記憶に新しいのはロベルト・ボラーニョ『2666』
本書のタイトルにもなっているバブロ・ネルーダとロベルト・ボラーニョの二人はアジェンデ大統領を支持していたという共通点もあるそうだ。

主人公は、首都サンティアゴに近い港町バルパライソで私立探偵をしているカジェタノ・ブルレ。彼はクライアント宅に向かう途中、空腹だったことを思い出し、お気に入りのカフェに陣取り、昔に引き戻され回想にふけりはじめる・・・

かくして、カジェタノの「探偵としての初めての事件」の物語の幕があける。
30年以上も昔、チリはアジェンデ大統領が打ち立てた社会主義政権が崩壊を迎えようとしていた。当時チリにやってきたばかりのカジェタノは、あるパーティでパブロ・ネルーダと出会う。スペイン語圏で最も偉大な詩人にして、ノーベル賞受賞者であり、アジェンデ大統領の元で駐仏大使を勤めた偉大な男だ。
そこで、ネルーダはカジェタノに「人を探してほしい」と依頼するのだ。それも内密に。
彼が探しているというのはキューバ人医師だった。専門は腫瘍。キューバにいた時から、ずっと会っていないという。
探偵の経験などないカジェタノは、そのオファーに尻込みするが、ネルーダは”ジョルジュ・シムノン”を読むようすすめるすなわちメグレ警部から学ぶべし。
戸惑ったものの、彼は“ネルーダのためのメグレ警部”になろうと決心する。
カジェタノは“熱意あふれるメグレ警部のやり方を踏襲し”まずはネルーダのことを客観的に知ろうとする。
そして、かつてネルーダの伝記を書いた女性作家から、彼はネルーダの多過ぎるほどの過去の女性遍歴を知らされる。ネルーダは決して聖人君子などではなかった
さらには、調査をすすめてまもなく、ネルーダの依頼の裏に意外な動機が隠されていたことが判明する・・・

手がかりをもとめ、カジェタノの調査の旅は、メキシコ、キューバ、東ドイツ、ボリビアにまで及ぶ。それはまさしく、ネルーダの女性遍歴と同じ道程を辿るものだったのだ・・・

Pablo Neruda Museum - 1「偉人はイコール聖人君子はない」
私たちはそれを分かっているはずだが、つい幻想を求めがちだ。

都合の悪いことには蓋をし、つい、全てにおいて高潔な人物にしてしまう。

著者は、よりリアルな血肉の通ったネルーダを描く。
簡潔な記録だけを読んでも、ネルーダは決していい人ではない。女性にだらしなく、自分勝手に女を捨てる。しかも自分の詩人としての成功が、女の不幸の上に成り立っていることを自覚もしている。
しかし、なぜだかネルーダは憎めないのだ。
確かに欠点はあるものの、同時に魅力ある人物であり、偉大なる詩人であることに変わりはない。同じパブロという名のピカソが女たらしだったように。

人というものは往々にして矛盾に満ちている生き物で、単純にこれだと分類できるものではないのかもしれない。
混沌としていて、曖昧で、鷹揚なものが本書には流れている。それこそが南米的なるものなのかもしれないなぁと思う。

また、この事件を通じて、カジェタノは”南米のメグレ”になるのだが、本書はその成長物語でもある。理路整然とした北半球の探偵たちとは別の考え方ができる探偵だ。

 

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