フィクション

地中の記憶 / ローリー・ロイ

2017-04-27

先日の「翻訳ミステリー大賞コンベンション」にて、書評家の川出さんが昨年のベスト1にあげていたのがローリー・ロイ「彼女が家に帰るまで」 だった。

 
この小説もエドガー賞にノミネートされていたらしいが、この時はウィリアム・K・クルーガー「ありふれた祈り」が受賞。その翌年はS・キングの「ミスター・メルセデス 」がさらってしまった。
そして、ようやくローリー・ロイの番がやってきたのだ。それが、本書「地中の記憶」である。
 
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舞台は20世紀半ばのアメリカ南部ケンタッキー州のヘイデン郡という田舎だ。物語は1952年のアニー・ホールラン、1936年のサラ・の視点から、章ごとに交互に語られていく。
 
アニーは15歳と半年のハーフバースデーを迎えようとしていた。
アニーの住む地域ではそれは「成女の日」と言われており、その日の真夜中に井戸を覗き込めば、将来の伴侶の顔が見えるといわれているのだ。

この10年、ほとんどの娘は成女の日に幼馴染のライス・ファルカーソンの家の井戸にいった。しかしアニーは、幼馴染への照れと反発心から、自分の家族が長年避けてきたベイン家の土地に忍び込む。
ベイン家との長年にわたる反目はジュナ叔母さんに端を発していた。彼女は去ってしまったが、両家の間の憎しみは消えることはなかった。

ベインの地所から帰る道すがら、アニーは偶然コーラ・ベインの死体を発見してしまう。最後のベイン家の人間コーラ夫人が死んでしまった今、ジュナ叔母さんは家に帰ってくるにちがいない。アニーはジュナ叔母さんの”帰郷”を感じるようになるのだが・・・

 
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アニーが発見した死体と、ベイン家とサラの家族を襲った悲劇の真相が物語の核で、予想通りでもあり、予想外でもある。
 
解説は、これまた「翻訳ミステリー大賞コンベンション」などでおなじみの杉江松恋さん。彼は、本書をして「心に棘が突き刺さる」と評する。そして、その棘は決して大きいわけでもないと。
 
そうなのだ。この物語にはいわゆる”大いなる悪”は存在しない。
誰しもが自分の立場を守るためについてしまいがちな小さな言い訳が、少しづつ重なり生まれた大いなる悲劇というのが適当だろう。聖人君子でもない限り、そういう「魔」は、誰にでも経験がある。誰にでも心当たりがあるがゆえに心地悪く感じさせる。
 
アニーがサラの娘だというのは作中すぐにわかるのだが、そのサラ、アニー共に、姉妹の確執に悩まされてもいる。男性には分かりにくいかもしれないが、微妙な姉妹関係を自分に当てはめ、共感する方も多いかもしれない。
また、南部アメリカの独特な因習的世界は少々好みが分かれるかも。
 
しかし特筆すべきは、この「地中の記憶 ーLet Me Die in His Footsteps」というタイトルなのだ。これは「あっ」となる。
読み終わってみると、これ以上ないタイトルだと思うはず。
 

 

 

 

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