フィクション

クロニクル4部作 / リチャード・ハウス

2015-07-16

『トルコの逃避行』 『砂漠の陰謀』  『ある殺人の記録』   『最後の罠』 、ようやく4部作を読み終わった。

なんでも本書は2013年のブッカー賞にもノミネートされたらしい。全部読んでみるとそれもありかなという通好みの作品。
当初は有力視する声もあったらしいが、結局最終候補に残れなかった。

日本人の、しかもエンタメを中心に読む層にはまず受けないと思う。

 

 

どこかのレビューには「ル・カレの再来」とかいう文字が踊っているが、でも違うと思うけど。いや、似たところがないわけでもないのだろうか。
複雑すぎて私にはよくわからなかった(トホー)

 

第一部の『トルコの逃避行』はスティーヴン・サトラーことフォードがイラクからトルコへと逃亡するという物語。
おもな舞台は戦争後のイラクとトルコ。イラクではアメリカの民間請負業者HOSCOが、焼却炉(バーンビット)の管理や道路建設、物資の補給などを行っていた。HOSCOは他にもイラクの砂漠に街を建設するという”マッシヴ”プロジェクトを進行中だ。その莫大な予算はアメリカ政府から出ている。
フォードは、HOSCOのギーズラーから命じられ、“スティーヴン・サトラー”という全く別の人物になって、イラクの地にやってくる。

ところが、ある日そのギーズラーから「問題が発生した。君には消えてもらわなければならない」という電話を受け取る。
サトラーとしての仕事を受ける際、フォードは二つの約束をさせられていた。ひとつはサトラーとして行動すること。そしてもうひとつは、去れといわれたら去ることだった。
それは入り組んだ陰謀だった。サトラーとしての報酬は25万ドルに過ぎないが、サトラーにかけられた嫌疑は”マッシヴ”の全予算5,300万ドルの横領だったのだ。
そんなフォードを追うのは、HOSCOに雇われた保険調査員のパーソンズだ。ところが、HOSCOがこの莫大な金の横領犯の追跡に雇っているのは自分一人だと知ったパーソンズは思わぬ行動に出る・・・

第二部の『砂漠の陰謀』は、時間軸を遡った第一部の前日譚。
サトラーをはじめとするHOSCOの請負人たちが、報酬と引き換えになぜイラクの地にやってきたのか、なぜサトラーが逃亡をしなければならなくなったのかという経緯が描かれている。
ここでの主役はサトラーことフォードから請負人のリーダー、レム・ガナーセンに変わる。請負人たちが働くのはキャンプ・リバティというバーン・ビット(焼却炉)だ。
レムがこの地で働くようになった不幸な経緯や、バーンビットから排出される有害物質は、まさに戦争の裏側だ。そしてそんな窮地のレムをスカウトしたのもポール・ギーズラーなのだ。

バーンビット(焼却炉)では文字通り”なんでも”燃やされる。ようは砂漠に掘った穴に軍事廃棄物だろうが、人の切断された手足などの医療廃棄物だろうがを、一切合切を放り込みジェット燃料で燃やすのだ。その際でる煙には、カドニウムやダイオキシンなどの有害物質が含まれている。

第一部と二部だけ読むと大掛かりなスリラーなのかなと思わせるが、第三部 『ある殺人の記録』 はそれを裏切る。
三部は、「ある殺人の記録」という作中作そのものなのである。
第一部で、フォードが逃亡中に知り合ったアメリカ人の青年が大切に読んでいた本であり、二部でレムが妻と最後に見にいった映画の原作でもある。

舞台はイタリアのナポリだ。ある小説を模倣して殺人を犯した兄弟と、その身代わりにされた男マレク、時を同じくして行方不明になった人々を題材にしてある青年によって書かれた本という入れ子の構造になっている。

続く四部 『最後の罠』は現実世界へと戻る。舞台はキプロスへ移り、主人公もまた変わる。ここでの主役はサトラーでもレムでもない。リーケという若い女性だ。

リーケの姉の夫はドイツ大使館員で、第一部でサトラーを追うパーソンにこう言ったヘニング・バスティアンだ。
「あなた(パーソン)がサトラーは見つけることはない。それは保証します。そしてHOSCOはあなたお役御免にして、それでこの件は終わりです」
その言葉を受けて、パーソンは物語を複雑にする突飛な行動にでるのだが、冒頭、三人のサトラーが発見されたという知らせから物語は始まる。

一人目はローマで列車に轢かれてバラバラになり、三人目は砂漠で大火傷を負い、キプロスの治療施設へと運ばれた。

出産間近の姉の付き添いで、姉夫婦とともにキプロスに滞在することになったリーケは、ノルウェー人のトーマスという男性に英語の個人レッスンをすることになる。
トーマスに惹かれる一方で、彼女はなぜトーマスが英語を習いたいのか不思議に思う。
そして、次第に彼女はサトラーを取り巻く謎に巻き込まれていく。

 

四部作中、もっとも混沌としているのが第三部の「作中作」。
スパイ系スリラーを期待していた人は、たぶんここで脱落するかもしれない。しかし、再読して一番読み応えがあるのもまた第三部なのだ。

この作中作は、エリック曰く、「まとまりがなく、不快で、なんの理由も書かれていなければ、謎の解明もされていない」が、これは、そのまま「クロニクル4部作」を通しての感想となる。
何も解決しないし、何も明らかにはされない。

エリックの言うように私も「よくわからないとこがあって、読み落とした箇所があるのかもしれない」
この感じは、ロベルト・ボラーニョの『2666』に似ている。それぞれの繋がり方も、なんだかわからない感がそっくりだ(笑)
実際イラク戦争にも「わからないまま」のことが多いのだろう。だが、わからなくても犠牲者は存在する。

余談だが、第四部の舞台キプロスについてのリーケの姉やロシア人のソルの持論はなかなか面白い。
キプロスは、まるで、もしかしたらそうなっていたかもしれないギリシャでもある。

ソル曰く
彼ら(キプロス国民)は、中途半端さを好むんだ。紛争で有名な島のままのほうがいいとさえ思っている。中略ー自分たちの行為が哀れだと気づくこともなく、国家全体がますます貧しくなっていく。問題はヨーロパの腐敗ではなくキプロスの怠惰だ。」

ギリシャ人は、借金棒引きにしてもらっても不満を主張できるのはすごい。
何年かしたらまた同じことになりそうではあるが。

 

 

 

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