上野の森で開催中のフェルメール展に行ってきた。

最大にして最も贅沢なフェルメール展に行ってきた。
日本人に絶大な人気を誇るフェルメール。その作品はわずか35点。うち8点が上野の森美術館にやってきた(1点は期間差し替え展示)

といってもフェルメールだけではなく、オランダ黄金時代の肖像画、宗教画、風景画、静物画の寡作50点あわせての企画展だ。
それぞれのテーマの部屋を過ぎ、光の回廊を抜けた先には、フェルメール作品だけを集めたそれはそれは贅沢なフェルメール・ルームがある。

チケットは前売りで2500円とかなり強気設定。当日券も買えるが2700円も也!
ネットで購入してもセブンイレブンでしか受け取れない。購入するとメールで番号が送られてきて、それをセブンのレジでバイトの外人さんに伝えて発券してもらうというローテクぶり…

全て日時指定入場制。館内入り口ではイヤホンガイドと展示作品を紹介した小冊子がもらえる。

当日券もバンバン売っており、日時指定制とはいえそれなりに混む。

例えば午前11時から入場開始のチケットでも、美術館入り口には10時半ごろから長蛇の列だ。11時になるとその群れがなだれ込むのだから、混まないわけがない。そして人々の群れは小冊子を手に順路の通りに進んで行く。

絵は冊子の番号通りの順番には展示されておらず、列を作ることも強制されていない。互いのマナーと好意によって、最前列で見た人は自発的に後ろに下がり譲りましょうというシステムなので、動線は悪くてもたつく。
高いチケット代を払ったのに当然人の頭越しにしか見えなかったという方も多いだろう。

混雑を避けるには、例えば11時入場のチケットなら時間差で11時半くらいに入場するほうがいいかもしれない。
私は一通り見たあと順路を逆走して戻り、再度一からゆっくりと鑑賞しなおした。誰かと一緒ならやらないが、一人なら満足するまで見ることができる。ただしフェルメール・ルームだけは常に混んでいたが。
トイレはフェルメールの出口付近にいる警備員さんに一言断り、イヤホンガイドを返却しないまま行って戻ってくればいい。

フェルメールだけは絵との鑑賞距離が若干離れているので、筆致等じっくりみるためには単眼鏡もおすすめ。

2回、3回と足を運ぶ方にとっては音声ガイダンスは不要では?と、諸々難ありな気もしたが、企画展自体は素晴らしかった。

「聖ルカ組合の理事たち」と「花の画家マリア・ファン・オーステルヴェイクの肖像画」は、ドミニク・スミスの「贋作」をちょっと思い出した。(この本に出てくる女流画家サラは彼女ほど恵まれてはなかったけれど)


オランダ黄金時代の画家の風俗や当時の雰囲気などもよくわかる素敵系小説。フェルメール自身はでてこないが、同時代の息吹を感じることができる。

 

フェルメール以外でいいなぁと思ったのは、ウェニークスの「野ウサギと狩りの獲物」

先ごろ天国に旅立ったマッチョカンガルーのロジャー氏のことを連想してしまった。といってもあちらはオーストラリアのカンガルー、こちらは貴族の今宵のディナーとなる野ウサギだが。

毛皮は一見柔らかそうだがその下の筋肉は硬直しかかっているのだろう。生命を持つ物体から、モノへと変化しつつあるウサギと花やデコな花瓶といった静物の取り合わせにゾクっとさせられる。

また、ハブリエル・メツーの「手紙を書く男」「手紙を読む」もなかなかよかった。
この絵は二枚で対になっている。
  
いかにもドンファン的な男の背後には、移り気を意味するヤギの絵が飾られ、対する手紙を読む女の背後には荒れた海を航行する絵が飾られている。
メツーはフェルメールの影響を強く受けていて、女が着ているのはフェルメールの絵でおなじみのリンクスの毛皮付きの黄色い上着だし、光の入る窓の位置、絵の配置、小物に至るまでフェルメールの特徴が感じられる。

ただし、本家フェルメールの「ワイングラス」を見るとメツーは霞んでしまった。

絵に込められたメッセージと演出、構図、光線の具合と色使い。フェルメールのこの洗練はなんなのだろう。
のっぺりしてしまうスマホレンズと一眼のプロ用レンズ以上に違う…

「お嬢さん、お気をつけなさい…」
危険な恋を諌める寓意をこめた絵は当時流行したという。この種の絵には官能的シーンは不可欠だったというが、フェルメールその一切を排し、ただ女性に酒を進めるというシーンのみですべてを演出している。

ところで、日本人がこれほどフェルメールを好きなのは、カメラが好きというのと同時にミステリ好きというのもあるのかもしれない。
一瞬を切り取った瞬間でその背後にストーリーがある。それは謎めいていおり、その謎を読み解くための小物もちりばめられている。

 

ご存知「牛乳を注ぐ女」こと”ミルクちゃん”も素晴らしかった。

 

日本初公開で、20日まで展示の「赤い帽子の娘」は、すごくすごく小さい作品だった(1月9日からは「取りもち女」展示)
この絵については一部その真贋に論争もあるらしいが、確かに少し違うのじゃないかという気もしたかな。

 

 

 

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